「弱さを許容してくれる場所」ひとよ しずるさんの映画レビュー(感想・評価)
弱さを許容してくれる場所
暴力を振るう父親を殺めた母は、15年後、約束通り残された兄妹の元に帰ってきた。帰還を喜ぶ者、母を恨む者、感情の整理がつけられない者。崩壊した家族の行く末は…。
家族のかたちを問う物語であるのは確かだが、もっと根元的な、人の弱さを描いた話でもある。
殺人の罪、大衆の悪意と、非常に重い内容だが、フイルムノワール的な暴力とエロス、つい笑いを漏らしてしまう人間の滑稽さなど、エンターテイメント要素もふんだんに盛り込まれている。
家族を取り巻く人々も、優しく、弱く、逞しく。救われない気持ちで終わらずに済む、バランスの取り方が絶妙だった。
難しいシチュエーション、複雑で微妙な感情の機微を表現する、役者陣の演技も素晴らしい。
ちゃんとしたい。社会に受け入れられたい。成功したい。人に喜ばれたい。優しくしたい。誰だって少なからずそう思って生きている。
でもままならない。上手く出来ない。夢見たのに、頑張ったのに、最善と思って選んだのに、今、目指したのとは違う未来にいる。
「何処で間違ったのか、何処からやり直せばいいのか、知ってるなら教えてくれよ!」「親の気持ちなんて子供にゃ全然伝わんなくて、空回りばっかりだよ!」心折れて、崩れ落ちて、慟哭する。
上手くできなかった。駄目な自分のままだった。これからどうしよう。何処へ行こう。しょんぼりと立ち竦む。
そんな時、無条件で、いいよいいよ、そのままのあなたでいいよと、受け入れてくれる場所として、最後にそこ(家族)があったなら。
そんな話のようにも思った。
父のように暴力を振るってしまうのではと恐れる長男。本当は側にいて愛して欲しかった長女。漁師を夢見たのにタクシー会社を継いだ社長。
皆迷いと後悔の中にいる。
あれで良かったと、本当は母でさえ信じきれない。「度胸じゃない、度胸なんかじゃないよ」でも、「私が間違ってたと認めたら、子供達が迷子になる」から、強ばった声音で、表情で、「私は間違ってない!」と、頑なに繰り返す。
母の残した、「何にだってなれる」の言葉に囚われて、手段を選ばず、何としても成功を掴もうとした次男。母が「親父殺してまでくれた自由」だから。なんだ、あんた一番似た者同士だったんじゃないか。
自分の弱さに向き合い、許容できた時、ようやく他人を許せるようになる。或いは、他人の弱さを許せた時に、ようやく自分の弱さも許して生きる気になるのかも知れない。
近すぎて、多くを占めすぎて、それが一番困難なのが、家族というものなんだろうけど。