「ひとよ、一夜、人よ」ひとよ ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
ひとよ、一夜、人よ
優しい映画だと思う。
「あの夜は一体何だったのか」
悲しみや途方に暮れた夜もある。
希望に満ちた夜もある。
「他の人には、どうでも良くても、自分にとって特別だったら、それで良いじゃないか」
でも、いつか皆にとって特別な夜も来るかもしれない。
そして、そんな夜は必ず明けるのだ。
埠頭の朝日のようにキラキラ輝いて。
DVによって引き起こされる悲劇的な事件を背景にしながらも、ひとりひとりの異なる葛藤を大切に描いている。
ともすれば、エゴとも捉えられかねないような行動も、心の揺らぎを暖かく見つめているように思う。
雄二は、母親に買ってもらったICレコーダーでたまたま母親の父を殺した告白を録音してしまって、それを何度も何度もひとりで聞き返して、その呪縛で悩んでいたのだ。
愛情なのか罪なのかと。
優しく、人の弱さや強さも見つめた映画だと思う。
過度に事件に寄らず、嫌がらせの張り紙やタイヤのパンクも、さもありなんと乗り越えるような様。
逆に、いかにもありがちな大樹と二三子の家族の問題は感情の振れ幅をやや大きくしてみせる対比。
弓の抱える家族の問題も実は、皆が抱える悩みのはずだ。居なくなって、ついでに死んでくれたら良いのにという弓の独白を聞くと、この問題の社会での大きさが分かる。
そして、園子と真貴の存在や行動が全体に凛とした前向きな雰囲気を与えている。
僕は、「巻き込まれようよ」という丸井の、決してカッコよくはない言葉で涙が溢れそうになった。
この映画には、世の中の縮図があるような気がした。
観賞後の心が軽くなるような映画だった。
最後に加えて、田中裕子さんはじめ、俳優陣が本当に素晴らしかった。皆んな、大好きになった(笑)←単純。