「役者さんの実力に安心して、ちょっとお座なりに作ってしまったのでしょうか。」ひとよ 琥珀さんの映画レビュー(感想・評価)
役者さんの実力に安心して、ちょっとお座なりに作ってしまったのでしょうか。
素朴な疑問。
❶出所の日まで情報開示されているのに、時間は不明、というのは法律的制度的に実際にあることなのでしょうか。或いは迎えにきた家族の待機場所などはないのでしょうか。だとすればヤクザの親分の出所などのニュース映像は子分たちもテレビ局も朝から張り込みをして撮っている⁈
出所した日が刑期を何年務めたあとなのか不明ですが、その後15年目に帰ってくるまでの期間、母親は職と場所を転々としていたと語ってましたが、約束、というよりあの夜に宣言した〝15年〟に拘ったが故に帰らなかったのか、だとしたらその拘りの理由は何なのか。守ったはずの子どもたちの〝今現在〟は気にならなかったのか。他に理由があって帰りづらかったからなのか。長女が手ぶらで帰ってきた後、兄弟3人は出所後しばらく経っても母親が帰って来ない理由についてあれこれ考えたはずですが、その間のことについてあまりにあっさりスルーし過ぎではないでしょうか。
宇治金時のネタのためだけの空白期間だとしたら、誠意の感じられない演出に思えてしまう。
❷母親は15年に渡る逃亡生活の果てに戻ってきたわけではなく、犯罪後、直ちに自首して裁判を経て収監されています。従って、裁判において改めて説明される父親の暴力やそれから子どもを守ろうとした母親の心情の詳細などの弁護側証言を聞いているはずです。結審後は刑務所での面会など(当然親代わり的な丸井社長や弁護士や子どもたちは母親との接点は継続的にあったはずです)を通じてお互いに慰めあったり、励まし合ったり、子どもたちへのいじめなどがひどければ、転校したりしたのではないでしょうか。
仮に転校などが経済的制約で具体的に何も対応が出来なかったとしても、母親が、誇らしいと自己満足してその後の子どもたちの苦労を何も知らないくせに、という次男の思い込みは生まれなかったということになります。
それに、事件当時、無免許であっても自動車の運転ができるほどの社会適合性を持っている子どもたちであれば、経済的援助がなくても弁護士や丸井社長の人脈も含めたアルバイト先斡旋やその後の進路の相談環境は相応にあったはずです。そして、どう生きていくべきかについても兄弟3人で思索することで(それができる3人であるように描かれてますよね)、平和な環境にいる同年代の他の子供たちよりも早い速度で成熟していきます。それでも卑屈な精神状態に追い込まれる状況ができるとしたら、それは母親への一方的な恨みという形ではなく、進路選択や就職などのタイミングで差別があった場合などに、機会均等という面でアンフェア且つ非寛容な社会への憤りを抱くということのほうが原因としては大きいと思います。
❸15年前の事件や報道を基に、わざわざ中傷ビラ配布やタイヤパンクなどの犯罪を(単なる嫌がらせではなく、れっきとした犯罪です)自分が起訴されるリスクを冒してまであんな嫌がらせをする人がいるのは不自然ではないでしょうか。個人的にあの母親やタクシー会社を恨んでいる人がいるなら別ですが、演出過剰気味だと思います。可能性としては否定しませんが、映画におけるリアリティとしてはやや興醒めです。不謹慎かもしれませんが、最近発生したエアガンによる幼児虐待のニュースを聞いて、野田市の児童虐待のことを思い出す人がどれほどいるのか、ということです。批判で言っているのではなく、世の中の実相として15年前の殺人事件はそれほども遠い出来事なのです。
あの規模の会社で防犯カメラやSECOMなどの装備が無いのも非現実的なように感じます。
役者さんの実力に依存して、色んなものがお座なりな気がしました。
【気になることについて備忘のため、追記 2019.11.10】
本作も『楽園』も私の中では、『怒り』とか『64ロクヨン』と同じ〝慟哭系〟だと思っているのですが、私がこのタイプの映画に期待するのは、まどろっこしいほどの個人の内面の葛藤です。その点、『怒り』は見事でした。綾野さんと妻夫木さん、宮崎あおいさん親子、広瀬すずさん、だけではなく、すべての登場人物が狂おしいほどに自己の内面と闘っていました。勿論、勝ち負けや正解などありません。鑑賞後、それぞれの登場人物が絶望的な状況の中でどう居場所を見つけていくのか、映画で描かれた出会いや関係性はどうなるのか、などを想像することで、いつのまにか普遍的なテーマ(例えば、自分の判断や責任や覚悟など)に向き合うことになります。
ところが、『楽園』の村八分とか本作の冷たい世間の嫌がらせ、は内面の葛藤の前に、外部に明確な悪意(敵)を設定してしまうことで、自己責任が曖昧になります。自己の弱さや過ちを外部要因のせいにできてしまいます。鑑賞後、観た者にのしかかってくる疲労感が『怒り』に比べて遥かに軽いのはそのためだと思います。
外部要因に依存した葛藤で映画を作った結果、本来深く思索しなければいけないことまで、スターウォーズのトルーパーやダイハードなどで片っ端から殺される敵側の子分たちのように、軽量化されてしまったのではないか。
これ舞台作品の映画化なんですね。だからなんか出だしのセリフが陳腐に見えるし、いろんな部分が端折られてる気がしてしまうのかなと思いました。箱の中で見るとしても映画はより現実に近い感じで見てしまう(こういう作品は特に)ので映画化し際してはもう少し練るべきなような気がしました。やっつけ仕事、、、なるほどです。
とくままさん、こちらこそありがとうございます。
裁判員制度もそれなりに機能している状況を考えて、もう少し一般の人にとっても人ごとに思えない、身近にあってもおかしくない、と思わせる作り方ができたはずで、そこが残念で勿体ないと思ってしまうのですよね。
まさにわたしがモヤモヤしたところを言語化していただいて、すこしスッキリしました、ありがとうございます。田中さんの素晴らしさで私は見れてしまったのですが、ラストのカーチェイス後の次男のセリフが聞き取れず、全くもってスッキリしませんでした。
まさしくそうですね。特に母親の心の葛藤が描ききれていなかったように思います。琥珀さんが、僕の疑問に感じたことをほとんど言語化して整理してくれいるので、自分が感動できないポイントがよりはっきりしました。
私もある程度までの理解はできても、自分がそうじゃない方面に関する今の世の新たな流れには正直付いていけてません。性とかこれまで根本と思われた既存のカテゴリーからも逸脱しそれを当たり前とする流れ。これからも何がどう崩されていくのでしょうかね。永遠に繰り返されるであろう混沌と秩序の狭間で。
マン年寝太郎さん、過分なお言葉を賜り、大変恐縮です。
イジメとか虐待とかが大きく社会問題化しているなか、多様性についてしっかりと向き合うことが大切だとの認識があります。創作の現場におけるそれはつまり自由で伸びやかな表現の可能性の追求、とも言い換えることができると思うのですが、その方たちが何かの事象を一括りにして決めつけてしまうことに怖さを感じることがあります。
大袈裟に言えば、相手(○○原理主義者とか、近所の国のこととか)を理解するのが面倒だから、分かりやすい言葉で一括りにして何かを決めつけてしまうことの怖さとでもいいましょうか。
kossyさん、ありがとうございます。
単純にこの作品から受けた印象なり、気が付いたりしたことを書いているだけなので、決して批判することが目的ではありません。
世の中には、色んな見方があるのだな、と捉えていただき、結果として〝多様性に寛容な社会〟が今のところは、相応に機能しているひとつの表れなのだと思っていただけると幸いです。
ただ、映画という素晴らしい創作や表現の場におられる方々だからこそ、複雑な問題をあまり一括りにして決めつけてしまう手法には疑問を感じることがあります。
松岡茉優さん 確かに一番良かった!
(すいません、間違えて同じ内容の文章を2度送信してしましましたが これって削除も出来ないし、誤字も修正出来ないのですね。
悪しからず。)
bamさん、コメントありがとうございます。
今回の家族の設定が今の司法制度の及ばない江戸時代の町人一家などであれば、一種のファンタジーとして成り立つと思います。
しかし、ネットや雑誌記事などの〝媒体〟というリアルを題材の一部に使用する以上、ファンタジーとして描くのは反則技にも思えました。
個人的には、15年間音沙汰のないまま迎えた『母帰る』の状況に違和感を覚えたか否かで評価が分かれていくのかな、と感じています。私の場合、鈴木亮平さんの長男がいきなり扉を閉めた段階で、それ以降の展開が全て演技力の審査会場で、与えられたシーンの課題を役者さんが必死にこなしているように感じられてしまったのです。
その場合、最優秀賞は当然、松岡茉優さんで決まりだと思います。
白石和彌監督作品初観賞。
余りにも曖昧な状況設定に 突っ込みどころが多く 全く感情移入が出来ませんでした。
それに反しての高評価の数の多さに戸惑っていたところに 唯一の同意見のレビューが上がっていたので安心しました。
殺人を犯したお母さんを子供達がタクシーを運転して追いかけるシーンで 「お母さんが戻って来たら私は〜」みたいな会話をしていましたが
あの状況下でああいう発言は絶対に言うわけが無い。
そういう リアリティーのない台詞が多かったのも 個人的には気に入って仕方がなかったです。
白石和彌監督作品初観賞。
余りにも曖昧な設定で突っ込みどころが多く、全く感情移入出来ませんでした。
それに反しての高評価の数の多さに戸惑っていたところに 唯一の同意見レビューが上がっていたのでので安心しました。
子供達が 殺人を犯したお母さんを追いかけるタクシーの中で「お母さんが戻ってきたら私は〜」みたいな台詞を言ってましたが
あの状況下であんな発言絶対に言うわけが無い。
こういった台本を言わされている感のある リアリティーの無い台詞が多かったところも 個人的には気になってしょうがなかったです。