「若者が反抗すべき〝敵〟がいないことへのいら立ち」ぼくらの7日間戦争 琥珀さんの映画レビュー(感想・評価)
若者が反抗すべき〝敵〟がいないことへのいら立ち
自分の青春時代にもこんな劇的な事件とか素敵な出会いがあったらいいなぁ。
そんな憧れやこそばゆさやほろ苦さをしっかりと味わえる作品。
ベタといえば思いきりベタだけど、ストレートに感情を吐き出せるのは、やっぱりあの時代しかできないし、ほんの一部でもいいから登場人物の誰かに自分を重ねてみる。
素直な気持ちでそれができるという意味では、我々鑑賞者に対してとても親切な映画だと思います。
今の時代の不透明感やいら立ちをよく表していると思ったのが、7日間戦争を戦う若者たちの敵が、ステレオタイプと言ってもいいような昭和的な悪徳政治家だったこと。
実際の世の中には、若者にとっての障害としてこんなに分かりやすい敵は、なかなかいません。
今の社会は、グローバル競争が当たり前のように喧伝され、企業のみならず、個人レベルでも生産性というモノサシで評価されるようになっています(実際のコミュニケーション能力がなくてもTOEICの得点が高い人の方が有利だったりするので、モノサシ自体の信憑性は低いと思うのですが)。
ということは、就活を始めて英語や資格の勉強をしている時点で、その若者はすでに、〝オトナ〟に象徴される社会システムの中で評価されるような人を目指して努力をしていることになるのではないでしょうか。
〝評価〟という言葉を使いましたが、実は明確な誰か(政府とか企業とか学校)が下しているわけではなく(結果的に合否とか採用不採用で分けられたとしてもあくまでも枠の問題)、若者自身が自分の能力が今の社会システムに対して適性があるのかないのかという観点で評価しようとしているケースが少なからずあるような気がしてます。
社会システムがどんなにいびつだとしても、すでに若者自身がそのシステムに組み込まれるような努力までしている以上、倒すべき何ものか、というものが想定できるはずはありません。
だから、この映画で高校生が戦う相手、を設定する際にも、昔ながらの悪徳政治家を引っ張り出さざるを得なかったのでしょう。
今のオトナの代表と言ってもいい、ソフトバンクの孫正義さんやZOZOの前澤さん、楽天の三木谷さんなどを敵に想定したとしても、憧れることはあっても倒すべき権威には見えません。不思議というか当然というべきなのか、彼らに富が集中していることをいびつでおかしいと思う感性の人を私は見たことがありません。この辺が難しいところなのですが、そのことについて肯定的であるということは、今の社会システムや経済システムについても、肯定的だということになります。正すべき点はたくさんあるのだとしても。
今の社会がこのままでいいとは思っていないけれど、今の社会での適合性を磨くことで必死な自分に苛立ちを感じてる人はたくさんいると思います。