「終わらない恐怖、葛藤」ホテル・ムンバイ Mihoさんの映画レビュー(感想・評価)
終わらない恐怖、葛藤
死者174人、負傷者239人を出したムンバイ同時多発テロの実話を元に再現された映画、「ホテルムンバイ」今もタリバン組織などのニュースを日々目にし、日本人にとっても他人事とは言えないテロの実在の意味を知るに相応しい映画。2時間が信じられないほど長く苦痛に感じるほど、その場のホテルの利用客として映画に入り込む様な作品だった。次の扉を開けられたら。と身震いしてしまう程だ。海外旅行経験の多い私だが、明日は我が身ではないけれど恐怖で救いようのない気分となった。しかしアンソニー・マラス監督は優秀だった、各々の正義の映し方が秀逸だったからだ。首謀者は別として、過激派集団の先頭に立つ少年兵士たちは洗脳教育、家族の為、英雄、名誉の為にその場に立つ、何度も葛藤する姿や、教育の乏しさ、経済難をしっかり映し出していたからだ。戦争やテロ、国の対立が消えることが望ましいが、また深くこの経験が溝をつくり、争いを生んでしまうのだ。それを象徴しているのは映画最後の「今も尚ホテルムンバイには多くの従業員 "戦士" がそこにいる。」と言うテロップだ。それらを止めるには "許す"という人間の懐の強さ次第と言ったところなのだろうと痛感したが、決して簡単では無いから虚しい。私達が簡単に別の国に行ける様にテロ組織も別の国に行ける。私ならあの場で何ができただろうか、そして働いていた側なら何ができただろうか。イスラム教徒のホテルマン、アルジュンに焦点を当てたシーンが多く出たが、実際の状況で多くの人々を導いた実在するオベロイに感無量である。自分の命のために心殺して客を売った従業員、死を覚悟してでも客を導いた従業員、子供のために立ち向かい死んだ父、息子のために死の間際でコーランを読み上げた母、誰かと自分のために死ぬ間際に足を噛み抵抗をしたロシア人、誰が味方かも言語の違いでわからず飛び出して殺されたアジア人…家族のために正義の為に人を多く殺し、殺された過激派少年兵士。銃声、怒声、悲鳴、戦争やテロを経験したことのない私でも痛い、痛い映画だった。感動はしない、今もどこかでこれが起きているからだ。