「心を動かすもの」ホテル・ムンバイ masakingさんの映画レビュー(感想・評価)
心を動かすもの
テロリストの襲撃を受けたことを知った調理場の従業員たちの姿が美しかった。
「小さな子どもがまだ3人いるんです」とその場を離れたがった一人を誰も責めることなく、「お客様は神様ですから」と、多くの従業員が宿泊客を匿うために残った。
よく聞くこのセリフが安っぽさを感じさせないのは、このシチュエーションで、従業員が自発的に口にした言葉だからだ。決して「お客様」目線の言葉ではないのだ。
そして、この「神様」という言葉は、テロ行為を先導するものやそれに付き従うものたちへの、最高の皮肉にもなっていて、とても深い。
特に、足に銃撃を受けて苦しむ人質監視役の若いテロリストは、ホテル従業員の揺るぎない「神」への献身と見事なまでに対照的であった。
「神」の代弁者であるテロ作戦の指導者は、回線の向こうで敵意を扇動し、残酷で気まぐれな指示を出し続けるが、一向に故郷の家族への金銭的保障は進めてくれない。
この若者にアメリカ人の夫を目の前で殺され、深い絶望の淵でイスラムの経典を唱え始めたイスラム系の女性の人質も、なんのためらいもなく「殺せ」と命じる。
結局彼は、信じていたはずの「神」が自己矛盾を起こしていることに、深く絶望しながら短い生涯を終えることになる。
調理場の従業員も、若いテロリストも、心を動かされて「神への献身」を決断する。
彼らの運命を分けたのは、その根源に欲望や損得勘定の有無があったかどうかの違いではなかったか。そんなことを思った。
信仰は、報われること、救われることを期待して深まるものではない。
燃えるホテル・ムンバイは、無償の愛に支えられた人々と、私利私欲や狭隘な自尊心を満たそうとする人々とが対立する世界の象徴だ。