「克明」ホテル・ムンバイ U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
克明
12年前の出来事らしい。
作中で語られるエピソードの真偽は定かではない。ほぼ創作なのかもしれないし、入念に取材した賜物なのかもしれない。
ただ…テロという未曾有の暴力に蹂躙されていく様には背筋が凍りつく。
あまりに理不尽な銃口から逃れる術がない。
たったの4人。
もしくは6人。
思想を刷り込まれ、銃という殺戮兵器をもたされた駒たちに、いとも容易く平和は破壊されていく…指先一つ、数秒引くだけで。
どれほどの恐怖に耐えたのだろうか?
物語は一切緩む事なく、猛獣と対峙する檻の中を描き続けているようだった。
硬直、緊張、どの言葉を使っても足りないように思う。制作サイドの断固たる決意の上にこの作品は成り立ってるように思う。
残さねばならない。
過去にしてはいけない。
ムンバイに降りかかった狂気は、今も尚、その火種はあちこちにあるのだと。
そんな事を思う。
インドでは絶大なる支持を受けた作品なのではなかろうかと思う。
直面してるからこそ、組織の構造にまで言及するのだろう…。実行犯は皆若く、等しく貧困で極端な思想に管理されてる。
親に愛され、自身も家族をあいしているようだ。とある地域では思想による統制でもなされているかのようで、親の世代にも「聖戦」としての正義が植え付けられているようだった。この作品では、その実行犯を被害者とも描いている。
もっと根深い。彼らの世界を狂わされた狂人がいるのだと。この事件の主犯は不明のままだそうだ。
作品としては若干長い。
途切れぬ緊張感故の演出もあるのだろうが、俺はそう感じた。
ただ、その執拗な、地を這うような重い空気感が、作品におけるリアリズムの要と言えなくもない。
印象的だったのは、エンディングだ。
再建し式典までやってるそうだ。
日本だと壊して数年空き地とかになりそうだと思うのだが、恐れ入る。
何人も人が死に、夥しい量の血が流れた場所だ。曰く付きの事故物件だ。誰がそんなとこに泊まろうと思うのだろうか?
ところがどっこい今もホテルとして営業を続けてる。いつの映像か誰かも分からないんだが、風船と紙吹雪の中で、満面の笑顔で万歳するおじさんがいる。
日本では不謹慎とか、叩かれまくりそうだが、それを甘んじて受けてでもやらねばならぬ事がある。
俺には強さに見えた。
テロには屈しない。
俺たちはこのホテルで戦った。
このホテルこそが、その象徴である、と。
強い。
なんと強靭な民族であろうか…。
そして、映画館を出た時の平和が…なんの疑念も躊躇いもなく満喫している平和が…その違和感が猛烈で…垂れ流される安寧な時間が哀れで…若干、行き場を失う。
日本はマヌケなぐらい平和だな。
それを国家として維持してくのは、きっと想像を絶するのだろうし、奇跡の産物なのかもしれない。