「こまやかな所作の描写が印象的な一作。」鹿の王 ユナと約束の旅 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
こまやかな所作の描写が印象的な一作。
文庫版で全四冊とかなり長編の原作であるため、一作の映画作品としてまとめきれるのかな…、とちょっと心配していたんだけど、結末までほぼ違和感なく一つの作品として観通すことができました(ただし物語独自の用語が頻出するため、キーワード程度は事前に知っておいた方が良さそうです)。様々な要素を上手く刈り込んだ、脚本の成果なのでしょうね。
予告編の映像を観た際は、キャラクターの表情はそれなりに魅力的なんだけど、なんか最近のアニメーション作品と比較すると地味、というかちょっと旧い世代の絵柄なのでは…、と感じていました。この感想は本作鑑賞後もそれほど変わらなかったんだけど、驚いたのはキャラクターの所作描写の繊細さです。その細やかさは、単にフレーム数を増やして滑らかさを表現する、といった類いのものではなく、例えば「ものを掴む」とか「器を手にのせる」とかの何気ない仕草に、あまり必要とは言えないような動きを加える、という形で現れています。キャラクターの動きを明確に伝えることが目的であればこれらはいわば「雑味」なんですが、そうした描写が加わることで、それぞれの挙動がたんなる記号的動作ではなく、まるで本当に生きている人物や動物が動いているように感じられるのです。
本作はスタジオジブリで作画監督を務めた安藤雅司監督をはじめとして、多くの実力あるアニメーターが製作に参加しているとのこと。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』や『黒小平戦記』などとはまた少し方向性の異なった、アニメーションの可能性を目の当たりにしました。
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