劇場公開日 2022年2月4日

「作画的には見事、エンタメとしてはもう少し」鹿の王 ユナと約束の旅 A・ガワゴラークさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0作画的には見事、エンタメとしてはもう少し

2022年2月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

原作は上橋菜穂子(「精霊の守り人」「獣の奏者」など)の児童文学で、単行本では上下巻、文庫では全4巻。謎の伝染病の流布、抗体を持つヴァンとユナの追跡、帝国とその属領を巡る陰謀、呪術的医療と近代医療のそれぞれの役割など、非常に幅広く描かれたファンタジーだ。
これを映画化したため脚本はかなり圧縮され、ヴァンとユナの親子にフォーカスしている。とくに、戦いに破れ奴隷となっていたヴァンが、父として再生していくところが本作の肝だろう。

作画はジブリ出身の安藤雅司監督、ベテランの井上俊之など、そうそうたるメンバー。日常の丁寧な動き、動物描写、そして鹿や騎馬などを伴ったアクションは全編にわたって高いレベルにある。
崖を疾駆する飛び鹿、モンゴルをモチーフとした村の生活、子供の動きなどが特に良かった。
複数の地域を旅する美術も見事。

どうしても脚本がせわしなく、各カットの尺が短くなるため、人物の所作で性格を見せるのが難しそうだ。原作を圧縮するのでなく、一部を切り出したほうが映画としては良かったかもしれない。
数本に分ける選択肢もあるが、この品質で2本の映画を作るのはスタジオの負荷が高く、難しかったろう。

原作との大きな違いとしては、医師ホッサルがヴァンの旅に合流することで、ホッサルの医術院でのシークエンスを省略している。政治体制や領土問題も深入りしない。

専門用語も多く、原作と合わせて楽しむのが良いかもしれない。上橋菜穂子さんの小説はあっという間に読ませる力があるので、ぜひお勧めする。

A・ガワゴラーク