「「俺のオルフェウスになれ」」HUMAN LOST 人間失格 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
「俺のオルフェウスになれ」
そもそも原作に超弩級パワーワードがあり、これを本作のようなSFで表現することの違和感を感じてしまったのが冒頭。「恥の多い生涯」という言葉は、フラットに読めば相当人から蔑まれて生きてきたのだろうと思ってしまうのだが、あくまでこれは当人の思う自己否定のことを指しているのである。なにせ多かれ少なかれ、人は人に言えない過去を心に仕舞っておきながら生きているから、それとどう折り合いをつけるかに気持のコントロールが掛かっているのであろう。
『ハードSFを読む上で求められるリテラシーとは「難しい概念を理解出来る知識を持っているか」ではない。「よく分らないままでも、物語の本質を損なわずに作品全体を理解するコトが可能な教養のラインを、感覚で見極められるかどうか」…だ 【バーナード嬢曰く。第一巻】抜粋』
今作のあるネタバレ感想レビューを読んで上記の記事に痛く感激した。正にこの格言がピッタリな作品であるからだ。『雰囲気で愉しむことが出来るか』を今作は観客に問うている。説明不足も甚だしく、大したカタルシスもなく、しかしやたらメッセージ性は肥大している、ストーリーというより、サンプリングといった方が納得出来る展開に、高尚なモノを観たなぁという心の余裕が求められているのだ。理解出来なかったらノベライズを読め、外伝も読め、しかし、原作の闇堕ちとは違う、希望を持って進もうというポジティヴさを添えてみました的ラストで、オマージュとリスペクトを超えてやった“どや顔”臭も、全てひっくるめて愉しむ、上位意識化でのエンタメなのである。原作だって、本質が理解出来る人なんてそれ程多くない。なにせ多かったらその国はとっくに滅びている。あぁ、世の中にはこういう人もいて、その苦悩を文学に昇華する錬金術を持ち併せていたんだ位の気持で観る事が肝要なのだ。
人は結構な割合で裏切られる。そこで諦めるのか、それでも信じるのか。そんな事はその時々で決断するものだ。そして、一番の人間の才能である“忘れる”というギフトに感謝しようw