「映画の2時間程度では描き切れない世界観」HUMAN LOST 人間失格 しずるさんの映画レビュー(感想・評価)
映画の2時間程度では描き切れない世界観
【あの太宰の名作をSF化】みたいな煽り文句には、余り期待をし過ぎない方がいい。
キャラクターやシチュエーションなど『人間失格』要素の取り入れ方、例えば、ヨシ子が人を疑わないあまり犯されて無垢性を失ってしまうというのを、ああいう表現にしたのかなぁとか、個々では面白く思うのだが。
太宰の人生と物語を重ねて読む文学性は、当たり前だが失われてしまっているので。
ここにこのファクターを引っ張ってきたのか!と、面白がれれば重畳かと。
SF世界観の特殊用語などは、SF慣れした人なら、何となくイメージで理解できるが、慣れているほど、類似作品が脳裏に浮かんで、比較対照してしまう悲しさ。
ゲームでもアニメでも漫画でも、人気があるゆえに使い尽くされた世界観。そう簡単に新鮮味が転がっている事もあるまいと、割り切るしかない。
何よりも、圧倒的に物語のボリュームに時間が足りてない!
美子の過去も、葉蔵の過去も、堀木の過去も。TVシリーズなら各々1~2話かけてゆっくり語って欲しい重要エピソードが、台詞一発で飛ばされてしまった。
原作の核となっている、他人が理解できず表面を繕って生きている苦しみや、社会に適応できず、自分は人間として失格しているのだろうと自嘲する悲しみ等、葉蔵の繊細な心情も伺い取れない。ほとんど自分の事喋りもしないもんな。
かと思えば、鑑賞の特典として、短編ボイスドラマを聴けるQRコード付きカードが貰えたのだが、その中でポロリと、葉蔵が結構重要な想いを漏らしていた。何故それを本編で描かなかったのか!結局世界観と筋を見せるのが精一杯で、キャラクターの感情まで仔細に描き切る事ができなかったんだろう。
世界観についても。例えば合格式。健康体で、年金を消費せず、現役19時間労働で、限界寿命120歳まで社会に尽くした者だけが『合格』という事かな?と読み取ったんだが、その先、喪服のような黒装束で式典に参列する老人達の行く末は?公園で遊ぶ声がしていたし、子供は存在するんだと思うが、死を極限まで廃したこの世界での妊娠や出産はどうなっているのか?
背景、設定についても、もう少し詳しく語ってくれれば、現代の少子高齢化問題などにもリンクし、もっと考えさせられる物語になったのではないかな。
映画の尺では色々と勿体ない。
TVなどで話数と時間をかけて、丁寧に見せて欲しかった。