「Twinkle twinkle Pistol star. 想像の斜め上を行くブッ飛んだ設定を、あなたは飲み込む事が出来るか…?」いなくなれ、群青 たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
Twinkle twinkle Pistol star. 想像の斜め上を行くブッ飛んだ設定を、あなたは飲み込む事が出来るか…?
“捨てられた人“が集う「階段島」で暮らす高校生・七草と彼の幼馴染・真辺の周辺で起こる出来事、そして彼らの変化を描いた青春ファンタジー。
主人公、七草を演じるのは『オオカミ少女と黒王子』『キセキ あの日のソビト』の横浜流星。
突如として島に現れた七草の幼馴染、真辺由宇を演じるのは『暗黒女子』『祈りの幕が下りる時』の飯豊まりえ。
原作は河野裕による同名小説(2014)。これは累計発行部数100万部を越える「階段島シリーズ」(2014-2019)の第1巻に当たる。
うーん、すごい…。
何が凄いって、こんなアホくさい話をいい大人たちが寄ってたかって一本の映画にしたという事実が凄い。
開幕早々、“捨てられた人“が流れ着く島というトンデモな設定をぶち込まれてさっそく困惑したが、その島の住人の正体というのがまたなんとも…。階段=怪談で、どうせ自殺した人とか未練を残して死んだ人とかなんでしょ?なんて思っていたのだが、まさか彼らが「成長過程で捨て去った人格」だったとは…!な…なにを言っているのかわからねーと思うが、おれも何を観たのかわからなかった…。頭がどうにかなりそうだった…。
あのさぁ…。第二次性徴を経て人格が変化するなんてのは普通の事なのよ!?子供の中身のまんま大人になったらそっちの方が怖いわっ!!それをなんか大事の様に騒ぎ立てて…。
じゃあ何か。階段島には俺のかつてのイキり心とか羞恥心とか異常なまでの性欲とかが屯してんのか?そんなんもう全員島の中でひっそりと爆死でもしておいてくれ。
そもそもなんやねん「君と一緒にいるために悲観的な僕は島に残らなければならないんだ…」って。高校生の頭の中なんておっぱいの事だけ!!そんな高尚な事考えてまへん!!第一、高校生の恋愛なんて人格を捨てようが何しようが半年もすれば自然消滅するんだから、そんなもんにいちいち構ってられないのよ。製作者の頭の中はいまだに思春期真っ盛りなのか!?
気になるのは台詞回し。
「ピストルスター…知ってるかな?」
「…僕の好きな星だよ。もしも何かのアンケートで好きな星を尋ねられれば、ピストルスターと答える」
「ふふ…。そんなアンケート聞いたことも無いな」
「…君の好きな星は?」
「んー、そうだなぁ…。俺はネメシスが好きだな」
「知らないな」
「まだ見つかってないからね」
…いやこんな事言う!?
文学が原作の映画にありがちな、小説の台詞をそのまんま持ってきっちゃったが為のカチカチなやり取り。インタビューによると、監督のこだわりで極力原作の台詞を変えなかった様なのだが、やはり文学と映画では表現が大きく違う訳で、映画の台詞が生身の人間から発される言葉である以上、原文から翻訳する必要は絶対にある。本作の台詞回しは一から十までこの調子で、あまりにもカチカチでコテコテなのでだんだん笑いが込み上げてくる。ロボットかっーつの。
あと、普通「ようやく最新のゲームが手に入ったぜぇ!」なんて言わん。何が手に入ったのかタイトルを口にするだろう。というか、本当にすぐ欲しいのならダウンロードしろよっ!インターネットは通じるんでしょ。
ストーリーもなんちゅうか、何やってんだコイツら…?という感じ。いや正確には何やってんだ、というよりも何もやってなくね、という困惑か。だってこれ、やってる事って基本的にバイオリンの弦を探してるだけだからね。つーか、基本的に楽器の弦なんて消耗品なんだから、島に一つも無いつーのはおかしく無いっすか。豊川ちゃんのバイオリンが島で唯一のものだとでも言うのだろうか?ティンパニもフルートもシンバルもピアノもエレキギターも、バンド演奏が出来るくらい沢山あるのにぃ?そんな事ある?
とりあえずエモい雰囲気を出す為に、薄いストーリーの中で高校生たちが泣いたり叫んだり泣き叫んだりする。「島の謎を解き明かす」的なベタなミステリーにはしたくなかったのかも知れないが、こんなにも中身が空っぽになるならベタなミステリーの方が何倍も良い。
最初から謎の答えを知っていた七草くんがそれを島のみんなにバラした事により、島から帰りたい派vs島に残りたい派で血で血を洗う抗争に発展する…とかそういう話なら大歓迎だったのだが。
ブーブー不満をぶちまけてきたが、本作のヒヤッとした雰囲気は嫌いでは無い…というかかなり好き。
カラッと爽やかな感じではなく、常に曇っていて湿度が高そうな島の情景はこの物語にピッタリで、それにより郷愁を駆られる様な不思議なノスタルジーが生み出されている。そこに制服姿の美男美女がいれば、確かにストーリーなんてなくても全然観ていられる。目の保養という意味ではとっても良い作品なのかも知れない。
因みに、島を覆う霧や土砂降りは人工的なものではなく、実際の天候を映画に組み込んだのだそう。この天気の悪さは間違いなく本作のチャームのひとつ。これがあると無いとでは全く違った印象になった事だろう。天気の神様、グッジョブ👍
という訳で、ストーリーの薄さも結局はこれはこれでアリかと納得出来たし、ブッ飛んだ設定も下手に無難なものにするよりかは独自性があって良いと思う。案外楽しんで鑑賞出来ました。
『国宝』(2025)効果で横浜流星の人気は鰻登りといった感じだし、イマイチ影の薄い本作に、今一度注目が集まる、なんて事があるかもね。
※主要キャストの4人、横浜流星、飯豊まりえ、矢作穂香、松岡広大は、実はみんな同じ高校の出身。しかも、横浜と矢作、飯豊と松岡はそれぞれ同級生である。どんな学校だ💦
まぁとにかく、同じ学校で青春を過ごした4人だけあってキャストの相性は抜群。俳優のアンサンブルを楽しむ事が出来るだろう。
ただ、これはこの映画に限った事じゃないんだけど、高校生という設定に無理がありすぎっ!!そんなに老けた高一が居るかっ!!豊川ちゃんを演じた中村里帆さんなんて、当時20くらいで中学生を演じてるからね。流石にそれは無理があるぞ…。
ただ、妙齢の女性が着るセーラー服というのもなかなかにマニアックで良いじゃあないですか…。うひひ…かつて捨てたはずのスケベ精神が階段島から戻ってきた様だ🏩
