劇場公開日 2019年11月22日

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「幸福な感慨がある」ライフ・イットセルフ 未来に続く物語 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0幸福な感慨がある

2019年12月15日
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鑑賞方法:映画館

 人生は条件と偶然によって成り立つ。本作品は偶然が紡ぎ出す運命を、ふたつの家族のシーンによって上手に描いてみせた。

 人は時に思い切った行動に出る。そして大抵の場合、後悔する。或いは行動しなかったことに後悔する。人生は選択の連続であり、タラレバを考えることは時間の無駄だとわかっていても、人は違った選択をしていた場合を考え、後悔する。
 人と人とは決して分かり合えることはない。他人に理解してもらえると思うのは甘えだ。そして他人を理解できると考えるのは思い上がりである。たとえ精神科医であっても、鬱病患者を理解できる訳ではない。彼らにできることは薬を処方することだけだ。そもそも人体について医学が解っていることは1パーセントにも満たないというのは、他ならぬ医学界の常識である。ましてや他人の頭の中だ。理解できないのが当然だ。
 規則を押し付けようとするセラピスト。自分の居心地の悪さと傷つけられたプライドを家族のためという大義名分で覆い隠す夫。夫の真意を理解できない妻。親の喪失を消化できずに自棄的な行動に走ってしまう娘。自身の不幸な生い立ちを克服して慈悲と寛容さを得た経営者。
 本作品の登場人物は典型的な人格ばかりである。物語はわかりやすく、無関係だった筈のそれぞれの人生がいつしか絡み合い、新しい人生を生み出す。人間ドラマとしてとてもよく出来ている。
 見ていて苦しいシーンが多いが、それぞれの苦しさがひとつにまとまるラストシーンでは、そこはかとない感動が押し寄せる。人生は語ることが出来ない。語ることができるのは人生そのものだけなのだという哲学は必ずしも肯定できるものではないが、作品としての世界観はすばらしい。人はかくも悲しく生きるものなのだという幸福な感慨があった。

耶馬英彦