「悪感情は窓外の雪のように…」CLIMAX クライマックス 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
悪感情は窓外の雪のように…
あっちでワーワーやってる間にこっちはゲロゲロやってる、みたいな同時にいくつものできごとが巻き起こるさまを、あと一歩でも踏み込んだらまったくのナンセンスに転じてしまいそうなギリギリのところで「映画」に踏みとどまって記述している。
その塩梅といったら本当に絶妙で、というかむしろ監督本人が意図的にそうしている節がある。リズムに合わせてスタッフクレジットが明滅したり、途中で意味ありげな文字列が画面を覆い尽くしたりするところなんかはまるっきり軽佻浮薄なミュージックビデオのようだ。カメラワークもムチャクチャで、終盤はもはや何を撮っているのかさえ判然としない箇所が多々ある。
しかし本作はやっぱり映画だ。なぜかって動きの面白さがあるからだ。LSD入りサングリアで徐々に狂っていくダンサーたちには、その狂乱の行く末を見届けたくなってしまうだけの動きの面白さがある。単に派手なものを寄せ集めただけのミュージックビデオとは異なり、個々の行為の確かな系列がある。そしてそれらに支えられた「物語」がある。
これだけ滅茶苦茶やってもちゃんと映画は成立する、いや、それどころか史上最高の傑作ができあがるのだ、というギャスパー・ノエの自信と才気が映像の節々にまで迸った怪作だと思う。
序盤のドキュメンタリータッチの意気込み披露シーンとか中盤のスタッフクレジットとか上下反転字幕とか、正直スタイリッシュを狙いすぎなんじゃないのと思うところはあったものの、映画としてのベースがしっかりしているので技巧が一人歩きしている感じはしなかった。
『ルクス・エテルナ』も同様だが、この監督は負の感情を少しずつ蓄積させるのがとにかくうまい。ジャンプスケアのようにワッとキレるのでもなく、ニヒリズムに酔って沈黙を貫くのでもない。それらは画面内に徐々に降り積もり、気づいた時には全身が埋もれて抜け出せなくなっている。ある意味で足し算の美学とでもいうべき妙技だ。
作品をコントロールしようとするあまり安易な引き算に走る作品というのはけっこうある。そりゃまあ作品内に系列が増えれば増えるほどコントロールが難しくなるのは当たり前のことだろう。ただ、やっぱりそういう薄口の映画ばかりでも面白くない。かといってムチャクチャすぎる物語に置いてけぼりを食らうのも不快だ。そのあたり本作はすごい。死ぬほどムチャクチャやってるのにそれを完全にコントロールできている。
あんまり他に類を見ない作風なのでかなり楽しめた。他の作品ももっと見てみたい。