「無関係に見える人のつながり。知的で深い思想が横たわる」世界の涯ての鼓動 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
無関係に見える人のつながり。知的で深い思想が横たわる
カンヌ国際映画祭のパルム・ドール受賞「パリ、テキサス」(1984)や、監督賞受賞「ベルリン・天使の詩」(1987)のヴィム・ベンダース監督(73歳)の新作。ベンダース監督といえば、音楽ドキュメンタリー映画「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」(1999)などもある巨匠である。
迎える主演は、アリシア・ヴィキャンデルと、ジェームズ・マカボイという大スター。
フランスのノルマンディーの海辺のホテルでジェームズとダニーは、運命的な出会いを果たす。
ジェームズは英国MI6の諜報員(スパイ)。ダニーは潜水艇で深海に潜り、生命の起源を解明する生物数学者。わずか5日間だったが、2人はたちまち大恋愛に落ちる。
一見、接点の無さそうな2人の運命的な出会いだったが、すぐにそれぞれの責務を果たすために離れていく。
生物数学者のダニーはグリーンランドに向かい、深海調査の最中、潜水艇が操縦不能になる。またジェームズはソマリアに潜入し、爆弾テロを阻止するための任務中に、ジハード戦士に捕らわれてしまう。
2人は極限状態の中で、生命の危機に直面するが、遠く離れてそれぞれに想いを馳せる・・・。
原作はJ・M・レッドガードの小説。タイトルは、"Submergence=潜水、冠水、沈没"。大恋愛に"沈没"していくことや、スパイとしての"潜入"、はたまたストレートに潜水艇のことと掛けている。
この作品には、知的で深い思想が横たわっている。
生まれた国や成育環境、宗教に翻弄される人間。同じ人間なのに使命が異なって見えることもある。関係ないように見える人々が、それぞれ接点を得ることで、大きく変わることもあると示す。それは恋愛であったり、互いの主張や立場の理解であったりする。
それを象徴する2人の会話がある。
イスラム社会と欧米社会の相容れない歴史的な関係性を解き放つのは困難なことと考えるダニーに対して、それは深海の生命の謎に興味や理解を示さない多くの人々に理解を求めるのと、何ら変わらないと、ジェームズは話す。諜報員としての使命を持つ者の思考である。
本作は単純なラブストーリーでもなく、事故・事件のパニック映画でもない。映像化するには深すぎるテーマで、なかなか伝わりにくいことに、あえてヴィム・ベンダース監督は果敢に挑戦している。それを美男美女の2人が高い演技力で支えている。
ちょっと難しすぎるかも。
さて、本作はアリシア・ヴィキャンデルの可憐な美しさを拝むことができるのはもちろんだが、共演がジェームズ・マカボイというところが面白い。
アリシアの実生活のダンナは、マイケル・ファスベンダー。「X-men」的に見ると、エリック(マグニートー)と、プロフェッサーX(チャールズ)の二股。さすがアリシアの魅力が為せる業・・・なんてね。
(2019/8/2/TOHOシネマズシャンテ/ビスタ/字幕:松浦美奈)