「焦点がぼやけているSF群像劇」囚われた国家 Ellさんの映画レビュー(感想・評価)
焦点がぼやけているSF群像劇
映画館で、字幕版を観ました。
可もなく不可もなくといった無難な出来の低予算SF映画。過度の期待をしていなければ十分楽しめる作品だと思います。
エイリアンに制圧された地球を背景に、「テロ」という手段で抵抗の希望をともし続けようとする米国シカゴの少人数レジスタンスの戦いを描く。
一人のスターを中心にありえない大立ち回りの活躍を描くのではなく、どこにでもいそうな一般市民(?)のささやかな抵抗の小さなドラマを時間軸にそって数珠的につなげている感じ。
SFとしては極めてローカル(地域的)で、小スケールな話。ツッコミどころ満載であるが、嫌いではないw
よかった点:
・最初から最後までたいした説明もなくだだーっと話が流れていく割に、なんとなく何が起きてる雰囲気でわかる。
・なんだかんだで最初から最後まで観客を飽きさせない。
・疲れたおっさんを演じるジョン・グッドマンが全然かっこよくないし、冒頭嫌われてもしょうがない役回りなのに、なんかかわいげがある。絶妙な匙加減の演技。すごいな、おっさん!
いただけない点:
・こういう系の映画に共通するけど、地球を制圧するほどのエイリアンなのに、ちょっと馬鹿すぎる。単体で行動して不必要にタイマンしたり、ボディーチェック怠ったり、ゆるすぎる。(まぁ、宇宙航海できるような文明レベルに沿った知性を与えてしまうと映画として話が始まらないからしょうがないんだろうけど。例えるなら、現代の最先端技術を持った悪意ある軍隊が石器時代の人間の集落を見つけて制圧したとして、その石器時代の人間たちに勝てる見込みが1%もあるのかという…)
・テロ万歳なストーリーに賛同できない。上記と関連するけど、宇宙航海できるほどの文明レベルを持つ敵対的なエイリアンに制空権取られたら、現実的に考えればもう既に詰んでいる。何か人間を生かしておかなくてはならない特別な理由でもなければ、反乱起こしてる地域ごと見せしめに全滅させられてもおかしくない。つまり、テロをやったところで何かがひっくり返るはずもなく、テロに対するエイリアンの報復行動に多数の人が巻き込まれ、命運が尽きるまでの時間が無駄に短くなるだけなのでは、などと考えてしまう。
・主なキャストに黒人が多すぎ。正直な話、画面が全体的に暗く、かつ出演されている黒人の俳優の方たちをあまり知らないため、顔が見分けづらくて誰が誰だかわからなくなるときがある。米国という割にはほとんど白人と黒人しか出てこないから、もう少しキャストの人種に多様性があってもよかったのでは…。
・"Beware of Greeks bearing gifts" の訳が残念。確かに「敵を信じるな」ではあるけど、トロイの木馬に関連した諺なのに、そのニュアンスがすっぱ抜けちゃってて、アハ効果が半減している気がする。かといって、良い訳も思いつかないのでしょうがないのかなぁ。翻訳は万能ではないよね…。(あえて訳すなら「プレゼントを携えてようが、敵は敵」とかかなぁ)
・エイリアン側に立つ、人間の秘密警察みたいな組織の俗称の訳が残念。原文ままの「ザ・ローチ」ってなんやねん。蔑称なんだから「ゴキブリ部隊」とかでもよかったのでは。地に巣食うエイリアンのヒントなのかもしれないし。
個人的には、こういうハードな題材のSF映画好きなので頑張ってほしいんですよねぇ。低予算ながら健闘していると思うし、それほど悪い出来でもないと思うので、過度の期待をせずに、だらりとご鑑賞くださいw