「偽ったのは他人と自分」ある女流作家の罪と罰 maruさんの映画レビュー(感想・評価)
偽ったのは他人と自分
元ベストセラー作家という過去の栄光を捨てられないリー・イスラエル。
世間の動向を読まない書きたいものを書きを続けることでどんどん時代に置いて行かれ、一方では、同性愛者という価値感に時代が追い付けいていない。おおっぴらに世間にPRできない自分の性格とアイデンティティをなんとか世間に知らしめたい、自分にはそれができる、なぜならベストセラー作家だから。「元」ですけど。
とあるきっかけで「有名人が書いた手紙」が金になると知ると、その執筆に力を注ぐようになる。
ゲイの友人(ジャック・ホック)と飲み友達になり、そばに置いていた理由は、自分の心のよりどころにするため、常に自分は上だと感じるため、手紙を売る手伝いをしてもらうため、利己的な理由の中に紛れてその実、マイノリティ同士「本当の友達」になりたかったようにも思える。でも、そのなり方がわからなかった。
猫だけが唯一の家族で、裏切らない。いや、動物だから「裏切っているかどうかもわからない」から、病院にも連れて行くし、熱心に世話をする。猫に注がれた愛は、結果的にリーの中で良心を生み、なんとか完全な嫌な人間にはならなくて済んでいた。
その猫が死んだので、良心が生まれることはなくなった。猫を媒体(冷めた言い方で大変申し訳ないですが)として、注いでいた愛が自分に返ってきていた、結果的に「自分を愛していた」部分がなくなり、自暴自棄になり、唯一の友人にも暴言を吐きちらす始末。当然、自業自得で警察に捕まり、御用となる。
リーが、「あなたのことも本に書いていい?」と許可を得るために、バーにジャックを呼びだしたラストシーン。個人的に(あ、リー謝るのかな)と思ったけど、今までと変わらぬ調子で、ジャックに悪態じみた言葉遣いで話す。重病になったジャックは、リーのことは許してはいなくて怒ってるんだけど、リーに対する仲間意識のようなものは薄れていない。
結局、リーはジャックに一言も謝らなかったが「ありがとう」と言っていた。
時代にそっぽ向かれている者同士、通じ合う者、生きていくつらさを共感しあい、「強がらなけれないけない」という姿勢をくずさなかった。それは、まもなく死が迎えに来るとしても、毅然としてそのスタンスをジャックは保ち続けた。それを見てリーも感化されたと思う。
きっと2人は、あえて「友達」という選択肢や言葉を使わなかったのだと思う。それをすると依存しあいって強くなれそうになかっただろうし。それでも、傍から見れば「友達を傷つけた」リーの罪は、ある。さらに他人を偽ったではなく、自分を偽った罪がある。
それらの罪の罰として、リーは友達がいなくなり、ほんとうに一人になった。
でもきっと、自分を愛せるようになれば一人ではなくなるはず。それは、本屋のオーナーのアナが、その希望をわずかに含んで映画は終わる。ちゃんと希望を見せてる部分が、映画としても好感が持てる。いい映画でした。