「青春期の葛藤を正面からドラマに取り入れたあたりを評価したい」二ノ国 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
青春期の葛藤を正面からドラマに取り入れたあたりを評価したい
高校生のユウ(声・山崎賢人)とハル(声・新田真剣佑)のふたりの男子は、コトナ(声・永野芽郁)を挟んでの三角関係。
とはいえ、ハルとコトナは公認のカップルで、ユウはハンディキャップを抱えている。
文字通りのハンディキャップで、彼は幼い頃の飛行機事故で車椅子生活を送っているからだ。
そんなある日、コトナは通り魔のような何者かに刺されてしまう。
彼女を助けようとしたハルは、刺されたコトナを抱いたまま、車道に飛び出してしまう。
間一髪、ユウは車椅子のままで二人を助けるが、それがきっかけで異世界「二ノ国」へ迷い込んでしまう・・・
というところから始まる物語で、まるっきり知らなかったのだけれど、ロールプレイングゲーム(RPG)を基にしているのだそうな。
そういわれればそんな感じもするが、異世界に迷い込むハナシはファンタジーものの王道なので、そんなことは全然思い至りませんでした。
なので、元のゲームとの比較は出来ません。
個人的には、中盤までかなり面白く観れました。
いくつか挙げると、
主人公ユウが車椅子生活をしていること。
このことで、彼はコトナに自分の想いを伝えられない。
また、中盤明かされる、車椅子生活に至った経緯とハルとの出逢いのエピソードはかなり泣かされます。
一ノ国(現実世界)と二ノ国の設定。
二ノ国自体は、動物顔の住人や、自動車の代わりに大型獣を使っているなど、ファンタジー要素が強く、全体に上手く活かされているとは言い難いものの、「わかりやすい異世界」という設定が好ましい。
また、ふたつの世界で「命が繋がっている」という設定がされているが、「どのように」繋がっているかは途中まで明らかにされない。
命が繋がる・・・という設定の置き方。
途中まで明らかにされないがゆえに、その解釈によって、主人公ふたりが対立していく展開は、ありがちともいえるが、王道ともいえる。
何を信じ、どう行動するか・・・という、思春期に必ず通らなければならない「葛藤」が巧みに盛り込まれている。
「葛藤」を正面から描いている。
葛藤とは、価値観のぶつかり合いから生じるが、現代においては、その価値観の良し悪し(もしくは、正解・不正解)が重要で、「正解」であることがよい(善い、ではない)とされる傾向がある。
が、価値観をどのように判断するのか、ぶつかり合うとはどういうことか、という「プロセス」が物語の主軸に据えられている・・・
というわけで、かなり王道的なファンタジーアニメーションといえましょう。
ただし、エンドクレジットで製作総指揮・原案者がトップにクレジットされるので、なんとなく『UFO学園の秘密』『宇宙の法―黎明編―』とかの系列アニメのにおいを感じてしまうのは否めず、ダメだなぁと思ったのは次のとおり。
クライマックスの対決シーン。
画面的にも脚本的にもスカスカ。
2時間サスペンスのように、関係者だけが一堂に会して、悪者がこれまでの経緯を訥々と語る。
これはお粗末。
これに続く対決シーンも、悪役の本性姿が幼稚ぽっく、いきなり年少者向けの展開になってしまい、ガッカリ。
モブ(群衆)シーン。
それまで丁寧な絵コンテに基づく作画にもかかわらず、集団での戦闘シーンでは粗雑なCGが使われており、ガッカリ。
モブシーンって、画を動かさなくても迫力ある演出は出来るはずなのだが、安易に動かしてしまっている。
これは、先に挙げたクライマックスの安直さにも繋がるかもしれない。
とはいえ、中学生ぐらいまでの子どもたちには、かなり受ける要素も詰まっており、特に「葛藤」を正面から扱ったドラマツルギーは評価したい。
監督の百瀬義行はスタジオジブリ出身で、前作『ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―』の「タマゴ」のエピソードを担当。
『ゲド戦記』では原画を担当してるが、その『ゲド戦記』レベルの面白さには達していると思う。