「原作が好きで見た人の感想」窮鼠はチーズの夢を見る 白石ちひろさんの映画レビュー(感想・評価)
原作が好きで見た人の感想
漫画の映画化で成功するケースは少ない。それはドラマ化アニメ化しかり。
今回も原作が大好きな私からしたら物足りなかったです。このシーンをあそこに当てはめたのね、このセリフをここで言わせたのね…と答え合わせしたけど、もっと原作の方が胸がえぐられたなと。
それでも3.5は私の中で高評価した作品です。
まず、2人の久々の再会、2度目の成り行きは映画の方が辻褄が合っていて良い。数年前の調査結果なんて見せられてもねーと思っていたので。
大伴のゲス具合は映画の方が際立ってる。「流される」と「優しさ」を勘違いして、戻れない所まで流されて、結局色んな人を傷つけるという感じが見事に演出されていた。特に原作では当日の流れでご飯に行ったり、肉体関係持ったりしていた所が、女の子にも今ヶ瀬にも別日に予定合わせて関係結んでいる所が本当にクズでした。
成田くんは表情の演技が素晴らしい。無理矢理口角上げて笑顔作ったり、大伴からの優しさや愛に触れると上手く受け止めてきれずに表情を隠してしまったり、全てがいじらしく感じます。今ヶ瀬のヒステリーさ、弱さがもっと演出されていたら、大伴の大らかさ(流されてはいるんだろうけど)が際立って、2人が結局求め合ってしまう必然が見えやすかったかなと感じた次第です。
また、この作品で重要なタチ・ネコのポジショニングでどう心が動かされていくかを映像だけで伝えるのは難しいなと感じました。原作知って、心情知ってるから、関係性の変化についていけたんだと思います。
最後が原作と違っていたのもまた良い。いつかダメになるかもしれない、このまま戻ることが無いのかもしれない、それでも惹かれる。理由はない。その感じが出たラストでしたね。
それと象徴的なイスも良い味でした。たまきがそこに座ることを大伴は良しとしなかったんだろうなと感じたのは私だけでしょうか。おいでと言って傷付けずに椅子から下ろす辺り、大伴らしくて良かったです。
個人的には同窓会に行く・行かないのくだり、夏生との対決で同じビールを頼まれて喜んでしまう今ヶ瀬、誕生日祝いを来年も買ってくれると言う大伴に一年以上関係が約束された事に幸せを隠しきれない今ヶ瀬がキュンポイントで、夏生との対決でお前を選べないと言われて「はい」と笑顔で答える今ヶ瀬が切ないポイントでした。