劇場公開日 2021年10月15日

「原作&司馬遼太郎ファンが作った秀逸な映像化」燃えよ剣 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0原作&司馬遼太郎ファンが作った秀逸な映像化

2021年11月16日
PCから投稿

2時間半近い上映時間を長いと思われるかも知れないが、幕末、新選組、土方歳三、どれひとつ描くにも足りるわけがない。なので大胆にエピソードをぶった切るしかなく、ダイジェスト的な構成になるのは避けられない。しかし本作では、ダイジェスト的な語り口を上手く使って、省略の合間に、さまざまなドラマの残り香が感じられるようにっている。

もともとこの題材に興味がない人には説明不足に映るだろうが、歴史好き、原作ファン、司馬遼太郎ファンがピンとくるような、小ネタの散りばめ方が上手い。基本的には長編小説の『燃えよ剣』を踏襲していて、あくまでも土方歳三が主人公なのだが、短編集の『新選組血風録』や別の短編の要素を取り入れることで、脇キャラにもそれぞれにドラマがあることが伝わってくる。

戊辰戦争末期の土方が回想する、という形式は、ともすれば勢いを削ぐおそれがあるのだが、岡田准一が土方のお国言葉で喋ることで、説明的になりすぎず、人となりを感じさせるシーンとしても機能している。時代考証と関係のない近藤勇のダンスシーンをぶっ込んでくるような遊び心も、映画の楽しさに直結している。

そして、演者が全員いい。特にウーマンラッシュアワー村本の山崎烝や、はんにゃ金田の藤堂平助がコメディリリーフでなく世界観の中に溶け込んでいて、本人の持ち味をこうやって活かすというキャスティングの妙を感じた。あと、これだけ詰め込んでいるのに、土方VS芹沢、土方VS以蔵、池田屋事件など、アクションの見せ場にちゃんと尺を使っている。特に中盤までの脚色や構成はみごとだと思うし、逆に終盤テンションが落ちるのは、そういう物語なので誠実な作りだと感じた。

村山章