「キャスティングの妙」燃えよ剣 よっちゃんイカさんの映画レビュー(感想・評価)
キャスティングの妙
僕は司馬遼太郎の新撰組は「燃えよ剣」ではなく「新撰組血風録」の方を読んでいるので原作との相違点を較べることは出来ないのだが、先ずは土方が魅力的に描かれていた。
新撰組、特に土方中心に物語を進めたのが功を奏したのだろう。
もちろん、今回の映画化自体無茶なのである。
大河ドラマで1年間かけても函館まで行けなかった(あの大河の時は近藤勇が一応主役だったのであえて描かなかったのかもしれないが。)のに、その全てを2時間半で見せようとするのだから無謀にも程がある。
しかし、それを良くまとめ上げた。
もちろんこの事件をあっさり行ってしまうのかと思うところもある。
特に後半に行くにつれて駆け足になっていってしまうので新撰組が崩壊していく箇所は味が薄い。
しかし、劇場から出るときには土方という男に魅了されていたことに気づく。
これだけでも今回の映画化は成功と言えるのではないだろうか。
それにしてもキャスティングがいい。
岡田准一さんの土方、鈴木亮平さんの近藤勇、山田涼介の沖田総司は今更言うに及ばず。
藤堂平助のはんにゃ金田さんはお大名の御落胤と言われても不思議ではないような品の良さがあり、その上油小路での土方との決闘も岡田准一に負けないくらいのアクションをしていたのは立派。
山崎丞のウーマンラッシュアワー村本さんも普段の漫才で繰り広げられるあの早口が山崎のなんとも言えない不気味さを表現していて秀逸。
松平容保公を演じた尾上右近さんも一本気で生真面目な性格を良く表現していて素晴らしい。
さらに一国の大名に相応しい風格もあって立派。
半沢直樹などの誇張された演技に歌舞伎役者を使うのもいいが、やはり本来はこうした時代劇における風格や品を表現するときに使いたい。
歌舞伎役者さんがお一人いるだけで映画全体が時代劇としてキュッと締まる感じかする。
山田裕貴さんも賢いが故に臆病になってしまう慶喜像を演じていてドンピシャ。
しかし、ここまで来たら土方とは違う、「武士道」ではないものに従っているという筋のようなものがあればなぁと思った。(原作での慶喜の扱いに従っただけなのだろうが。)
芹沢や山南は大河ドラマ「新撰組!!」で演じた俳優さんの記憶がいまだに色濃く頭の中にあるのでどうしてもキャラクター像を比べて見てしまった。
芹沢や山南に関しては三谷幸喜さんのキャラ造形の方が好きだ。
この新撰組で1年間大河ドラマを作ってほしい。
そう思えるくらいぴったりなキャスティングだったと思う。