「"発明"を超えるハードルはとてつもなく高い」貞子 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
"発明"を超えるハードルはとてつもなく高い
言うまでもなく、鈴木光司の原作小説があってのシリーズなのだが、やはり原作小説にはない、"貞子がテレビ画面から出てくる"という中田監督が考案した演出は、ホラー史に残る"大発明"なのだ。
実際、オリジナル小説3部作(「リング」、「らせん」、「ループ」)は、ホラーではなく、仮想現実とコンピューターウイルスが引き起こす事象を描いたSF小説だ。だから「ループ」は映画化に至らない。
そんな約20年前の画期的ホラー「リング」(1998)を撮った中田秀夫監督による久々のシリーズ最新作。
本作はハリウッドリメイクやスピンオフを含め、通算12作目になる(以下:日本公開タイトル)。これほどまでに世界的に拡大した日本発のホラー作品はない。
「リング」(1998/日本/中田秀夫)
「らせん」(1998/日本/飯田譲治)
「ザ・リング・ウィルス」(1999/韓国/キム・ドンビン)
「リング2」(1999/日本/中田秀夫)
「リング0 バースデイ」(2000/日本/鶴田法男)
「ザ・リング」(2002/米国/ゴア・ヴァービンスキー)
「ザ・リング2」(2005/米国/中田秀夫)
「貞子3D」(2012/日本/英勉)
「貞子3D2」(2013/日本/英勉)
「貞子vs伽椰子」(2016/日本/白石晃士)
「ザ・リング リバース」(2018/米国/F・ハビエル・グティエレス)
本作のアイデンティティーといえば"呪いのビデオ(テープ)"である。20年前は"拡散"という言葉の使い方はなく、ダビング(コピー)によって貞子の呪いは広がっていった。
それがシリーズを重ねるごとに、映像技術やライフスタイルの変化に合わせ、メディアを変容させてきた。
世界的ヒットの「アバター」(2009)による3Dトレンドでは、「貞子3D」(2012)を産み出したが、もともと画面から飛び出してくる貞子を3D化しても、何も新味はなかった・・・それより"貞子虫"に笑った。
本作では、"Youtuber"を取り上げている。しかし呪いの拡散ツールとしては、"見たら死ぬ"ではなく、"撮ったら死ぬ"と後退。また"井戸"さえもインサート映像で使ってはいるものの、中田監督は封印してしまった。本作の"貞子"は恐怖の連鎖が弱すぎる。
そもそもシリーズを通して鑑賞レートはG(一般)なので、ホラーとしては怖くない。中田監督をしても、"発明"を超えるハードルはとてつもなく高い。
池田エライザの主演はとてもいい。「ルームロンダリング」(2018)のイメージがあるので、もっと霊体と闘えそうな錯覚を抱いてしまうが、そんなわけはない。
せっかくだから、1週間限定の4DX版で観た。"水"の効果を強めにしている。天井から水がしたたるシーン。Youtuberが炭酸飲料(?)を扱うシーンの水しぶき・・・中田監督の指示ではないだろう。ミスト程度の"水"効果しかないMX4Dでは、これはできない。おそらく清水崇監督の「雨女」(2016)での4DX演出の経験値が活かされている。
ちなみに、本作は鈴木光司の小説「タイド」が原作表記になっているが、内容も登場人物もまったく関係ない。KADOKAWAが自社の文庫タイトルを売りたいだけと思われても仕方ない。
(2019/5/24/ユナイテッドシネマ豊洲/シネスコ)