劇場公開日 2019年4月27日

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カンパイ!日本酒に恋した女たち : インタビュー

2019年4月22日更新
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思わず日本酒が飲みたくなる映画を ロス在住ジャーナリストが2作目を撮った理由

「カンパイ!日本に恋した女たち」は、「カンパイ!世界が恋する日本酒」に続く第2弾の日本酒ドキュメンタリー。かつては女人禁制だった日本酒の世界で活躍する3人の女性たちを追う。監督は、ゴールデングローブ賞を選出する「ハリウッド外国人記者協会」(HFPA)に所属する小西未来氏。ロサンゼルス在住のジャーナリストが2作目を撮った理由は……。(取材・文/平辻哲也)

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前作「カンパイ!世界が恋する日本酒」は、京都・木下酒造に勤める初の外国人杜氏のフィリップ・ハーパー氏、岩手の酒蔵・「南部美人」の5代目蔵元・久慈浩介氏、神奈川・鎌倉で暮らす米ジャーナリストのジョン・ゴントナー氏に密着し、日本酒の魅力を紐解いたもの。パート2では、日本酒業界で輝く3人の女性の姿を追った。

シリーズ製作のきっかけは、知人の紹介で、「南部美人」の蔵元・久慈さんと米ロサンゼルスで知り合ったこと。「もともと日本的なドキュメンタリーを作りたいなという気持ちがありました。『カンパイ』は日本酒に関係する3人という構成ですが、ヒントにしたのはスティーブン・ソダーバーグ監督が麻薬をテーマに描いた群像劇『トラフィック』。麻薬を栽培する人がいて、売る人間がいる。これも日本酒を作る人、評論する人、売る人、宣伝する人の話じゃないですか」と意外なところに発想の種があったことを明かす。

日本酒は全くの素人だったという小西氏。「むしろ嫌いでした。というのも、美味しいものに出会ったことがなかったんです。ただ、これだけブームということはきっとおいしいものがあるに違いない、だから、ドキュメンタリーを作れば、おいしいものに出会えるだろうなという下心がありました。同時に心配だったのは、飲んで気に入らなかったら、どうしようということでしたが、杞憂でした。最初にロケに行ったハーパーさんのところでハマったんです」

前作は、日本酒のディープな世界を業界のアウトサイダーたちの視点で描いた秀作だったが、パート2では撮影の技術も語り口も進化。3人の女性が魅力的に描かれている。「外国人が日本で最も伝統的な産業の中に入って、頑張っているところに感動し、1作目を作りました。パート2も、そういったアウトサイダーがいいなと思っていたところ、女性というアングルが浮かびました。もうひとつには前回の反省もあります。ハーパーさんが教えてくれたんですが、奥さんが映画を褒めてくれなかったそうなんです。『だって、中年のオッサンしかいないじゃない』って(笑)。じゃあ、女性とか、若い人たちが出たらいいんだな、と思ったわけです」。

第2弾に登場するのは、広島に100年以上続く酒蔵を酒造りごと継いだ杜氏の今田美穂氏、大胆なフードペアリングで日本酒界に新たな旋風を巻き起こしている日本酒バーのカリスマ店長・千葉麻里絵氏、日本酒の魅力を様々な形で発信するニュージーランド出身の日本酒コンサルタント、レベッカ・ウィルソンライ氏。「パート1の時から日本酒業界は人材の宝庫だっていうことに気づいたんです。新しく出会った人がそれぞれ面白いんです。千葉さんもパート1の撮影時に知り合った方でした」。

パート2は2015年秋頃から約1年をかけて丹念に撮影。日本のみならず世界各国を巡っているが、9割は小西氏自身の撮影によるものだ。「撮影を人に頼んだのは、自分が日本に帰れなかった時とインタビューの時です。あとは僕が一眼レフカメラで4K撮影しています。ドローンも勉強しました。実際は10回ぐらい飛ばして、落ちまくっています(笑)。こうした機材の進化は大きいですね。一眼レフカメラでの一番のメリットは、取材対象にプレッシャーを与えないこと。普通に写真撮っているような感覚で対応してくれるんです」。

小西氏はスティーブン・チョボウスキー氏の小説「ウォールフラワー」や、エド・キャットマル氏の「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」などの邦訳を手がけているほか、ロス発の映画情報を発信しているが、ジョージ・ルーカス、ロバート・ゼメキス、ロン・ハワードを輩出した名門・南カリフォルニア大学映像学部出身。短編映画「ブラインド」(00)や「Close To You」(03)でメガホンをとり、犬童一心監督の「ジョゼと虎と魚たち」(03)のメイキング「The Diary of ジョゼと虎と魚たち」では監督・撮影・編集を担当している。

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「もともと映画をやりたいという思いがありました。ジャーナリストをしながらも、自分が居るべき場所じゃないと思っていました。原稿を書いたり、翻訳する時は自分のスキルの一部しか使ってない感じがしていたんですが、初めて全身を使って運動している気がします。正直、ドキュメンタリー自体には興味があったわけではないんですが、撮影、インタビュー、編集など自分の今までのスキルが全部役に立っています」と話す。

日本酒との出合いは、新たな気付きも与えてくれた。「僕は映画にしか興味がなく、映画のクリエイターを尊敬していたけども、同時に食にも興味がありました。しかし、そういう人たちに出会う機会がなかったんです。一番楽しいと思ったのは、仕事という口実で、尊敬する人の仕事場を間近で見られたことです。この映画を通じて、日本酒を大好きになったし、日本酒に打ち込んでいる人たちを間近に迫って、元気や刺激をいただきました。これはすごくありがたい仕事だなと思いました」。

「カンパイ」の2作に共通するのは、鑑賞後に一杯、日本酒を飲みたくなる、ということ。「それは嬉しいですね。パート1でも、自分に言い聞かせていたのは、まさにそういう映画にしようということでした。今回はもうひとつ目標があって、女性が見て、楽しいと思える映画を目指そうということでした。男性がよく読む週刊誌が選ぶような目線で作るのは絶対ダメと思ったんですが、自分は中年のオヤジで、自分自身が信用できないんですね」と笑う。

最後に、おすすめの日本酒も聞いた。「映画に出てくる日本酒はすべて美味しいです。僕はお米の味がしっかり出ているものが好きです。酸味があって、食中酒みたいなもの。たとえば、仙禽(栃木)、春霞(秋田)。一瞬しか出てこないんですけども、賀茂金秀(広島)。撮影したけれども、映画には使えなかった仁井田本家(福島)などが好きです」。

今後は、より一層映画製作に力を注ぎたい考え。「準備中なのがあって、活躍の幅を広げたいなと思っています。『カンパイ』の第3弾もネタはありますので、ワンクッションおいて、やってみたい。それで新しい刺激をもらって、何か違ったものが生まれるかもしれないと思っています」と小西氏。劇映画デビューにも期待したい。

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