「令和の新しいアニメーション手法を匂わせる映画」サイダーのように言葉が湧き上がる たんたんたぬきさんの映画レビュー(感想・評価)
令和の新しいアニメーション手法を匂わせる映画
とにかく発見が多い映画だった
ストーリーの風呂敷は広げ過ぎていないものの、お手本のようなストーリーの流れに加えた新しいアニメーション表現の数々。
作画がただ綺麗に描けばいい、いい俳優・声優を揃えればいいわけではない、とわからせてくれる映画。
出来がただただ良かった。
別に派手なアクションも感動も綺麗な作画も豪華声優も求めちゃいない、こういう目を見開いてハッとする映画が見たかった。
・絵について
独特の配色は見る前は「目がチカチカしそう」という印象。見てからは、実は後半暗めの配色の方が多く、前半に青春感とポップさを引き出す一方、心情風景を浮き上がらせるためのものと受け取れた。
アメリカ的なただポップなものではない。新しいアニメーションの手法といって差し支えないと思う。
・現代ツールの描き方
これが本当にすごい
所謂TwitterとLINE配信を、一昔前の手紙、メールや電話のやりとりいったツールのやりとりで起きていた間接的な繋がり・もどかしさを見事に置き換えている。
今まで母親しかフォロワーがいなかったのに、ある人から「いいね」をもらったらドキドキするとか、好きな人の配信を見てるとか、伝わりそうで伝わらない感じがなるほどとしか言いようがない。
スマホやラインをただの現代ツールとして描くと、すぐに気持ちが伝わるだけの興醒めなものになる。事実皆そう思っている。昭和の文通のように、好きでないけれど好きかもしれないと言うドキドキを令和にするとこうなるんだなーと感心した。
・演出
現代ツールに連なる新しい表現。
離れた二人を二画面にスプリットして映すのは珍しくないだろう。
問題は二人の向きである。
電話など連絡を取り合うやり取りをしている二人は基本的に向かい合わせだ。2人がすれ違っている時は逆で背中合わせとなる。これが一般的なわかりやすい演出。
この映画では2人とも同じ向きを向いている。2人とも右か、左の同じ方向。一見すれば画面上の2人には繋がりがないように見える。しかし、彼らは同じ時間を共有しているのが一目瞭然となっている。
なぜなら彼らが向かって見ているのはスマホであり、連絡を取っているわけではなくTwitterや配信をしている「同じ行為」だから。
これもすごいと思った。
・声について。
主題ではないものの発見が多かった。
メインキャストを声優にしていない分、大分声優たちは自身の声質を抑え目にされている。それが作品に統一感を出している。
一言で杉咲花の演技力がすごかった。
声優のような声に独特な張りがある感じではないものの、芝居が多彩でキャラがコロコロ動く。近年女優によくある素人感溢れる淡々とした棒読み芝居ではない。逆に市川染五郎は淡々とした芝居だったが、ただ力が抜けている感じが良かった
印象的だったのがベテラン声優の布陣。
中高年に割り当てられている。
二人の母役。坂本真綾の庶民的な母役は珍しい。ぶっきらぼうでどこにでもいる母。
井上喜久子の母役は珍しくないが、艶のある声を抑えている。最初に聞いて井上喜久子と気づく人は少ないだろう。
神谷浩史の父役も珍しい。久川綾は介護のおばさんにしては色っぽさがありすぎたろう。
これが聞けるのは本作だけかと思う。
スマイルの姉妹は中島愛と諸星すみれだが、二人とも自身の持ち味をあえて殺している。諸星すみれの舌足らずが少ない。個性が強そうな三姉妹として描きつつも、メインの杉咲花が浮かないよう、またスポットをずらさないようにギリギリを攻めている気がした。
ただただ俳優女優をキャスティングして彼らを浮かないよう作る昨今のアニメ映画が多い中、まるで新人声優(といってもずば抜けた演技)をベテラン布陣が固めて彼らの持ち味を引き出そうとするような、かなり考えられているキャスティングと演技だと思う。
・総括
派手さがなく、直接的なやりとりも多くなく、2人の行く末を見守る所謂キュンキュンするようなもどかしいようなそんな恋愛映画…といってしまうのは簡単だが今までのものが古臭く感じるほど新しいアニメーション映画と思う。
多くのアニメファンとアニメ関係者はこれを見て続けばよいとすら思えた。