「夏シネマ 湧き上がる雲 色深し」サイダーのように言葉が湧き上がる mrkc7さんの映画レビュー(感想・評価)
夏シネマ 湧き上がる雲 色深し
アニメだからこその映像表現は数々あるがこれもまた良し。
舞台は夏。そこにビッタビタにハマる鮮やかな色使い。立ち登る入道雲の白。物語が展開する田舎のショッピングモールもストーリーのキーとなるレコード店も色彩に合ったアイテムだった。回想シーンだけ色調を押さえていたのも好印象。レコード店の片付けのシーンで尾崎豊や米米CLUBのレコードジャケットっぽいのが出てきてたり自販機のボス的なロゴマークがフレディマーキュリーっぽかったのも小ネタとしてくすぐられた。フレディは出っ歯繋がりか?
内気な俳句好きの男の子とライバーの女の子の出会いから始まる物語。きっかけは上手くまとまったが、惹かれあう過程をもう少し丁寧に表現して欲しかった。また話題がレコードに寄って俳句が疎かになった印象がある。
そして最大の見せ場、「やまざくら」という言葉にレコードと俳句が重なり合いラストの夏祭りでのポエトリーリーディングになだれ込む展開も上手くまとまった。
映画で観るべきは主人公の成長と周りの後押しである。
主人公が成長しない、変わらない映画はつまらない。
この映画では見事に背中は押され、主人公は成長した。エンドロール後のシルエットも良かった。それくらいで充分だ。いい頃合い。
惜しいのは選曲だ。レコードのビジュアルやアルファベットでの「YAMAZAKURA」というタイトルからこの曲はどうなんだろうか?大貫妙子は嫌いではないが、ここは違うのでは?声を聴いた瞬間に大貫妙子なのだ。でもビジュアルはちがうもっとカワイイアイドル風の歌手、藤山さくらなのだ。せめて無名の歌手を抜擢して欲しかった。大貫妙子は色が強すぎた。
これは相当難しい選曲になると思うし、答えなどないのだが、もっと丁寧に時間をかけて選曲して欲しかった。
俳句はえらくテクニカルなものも含まれていて面白かった。そうかと思うと安易に「かな」でしめるものも。高校生らしくていいがひとりで作ったもので無いことも何となくわかる。
すべて踏まえての評価はいい映画だった。
が、2回は観にいかない。わかりやすくサラッと楽しめた。仕掛けがいい具合に本筋を彩った。
あとパンフレットは劇中のレコードジャケットを再現したものなので1200円の大判。嬉しくなって買いました。映画はクーポンを使って1200円で鑑賞。同じ金額ですが、劇中の俳句も載っているので見返すのに良いものです。
蝉時雨 サイダーを手に バスを待つ