劇場公開日 2020年1月25日

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彼らは生きていた : 映画評論・批評

2020年1月21日更新

2020年1月25日よりシアター・イメージフォーラムほかにてロードショー

ピージャクが誘う百年前の戦場。技術と労力で蘇った歴史映像がリアルに迫る

冒頭モノクロで始まった記録映像がほどなくカラーに移行。その瞬間、映った兵士たちがぐっと間近に迫ってくる。それまで歴史の場面を遠くで眺めていた意識から、突然その場にタイムトリップした感覚になると言ってもいい。これは間違いなく、今までの歴史ドキュメンタリーにはなかった体験だ。

監督は、「ロード・オブ・ザ・リング」(LOTR)シリーズで視覚効果を駆使し、壮大な世界観の冒険ファンタジーを創り上げた映像の魔術師ピーター・ジャクソン。イギリス帝国戦争博物館から第一次世界大戦終結百周年事業として、アーカイブ映像を使ったドキュメンタリー制作を依頼されたピージャクは、祖父が同大戦に英兵士として従軍したことから「自身にとって最も個人的な映画」として取り組んだ。戦争のどの側面を扱うかは任されたというが、監督はそんな思い入れから、英国の若者たちが入隊し、軍事訓練を受け、フランスの西部戦線に送られて戦闘に臨むという視点を選択した。

映像面では、フィルムの傷と劣化の修復はもちろんのこと、ばらばらな速度で撮影されていた元の映像を毎秒24フレームに修正することで、より自然な動きになった。着色作業には歴史家からの情報や、映っている場所の現在の写真も活用した。

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音声面ではナレーションの代わりに、BBCが保管していた退役軍人たちのインタビューを映像の説明として適用。兵士たちの会話などは、しゃべっている言葉を読唇術のプロに特定してもらい、特有地域の方言を話せる役者にアテレコさせた。さらにLOTRでオスカーを受賞したチームが、砲撃や銃声から、戦車などの機械音、行軍の足音や馬のひづめの音までさまざまな環境音を再現した。

かくして完成した「彼らは生きていた」は、当時の若者たちがどんな思いで入隊し、戦場で何を見て何を聞いたか、そして敵のドイツ兵とどう戦ったかを、異様な迫力で疑似体験させる稀有なドキュメンタリーとなった。制作に至った経緯は先述の通りだが、当然ながら戦争を美化するものでも戦勝を称揚するものでもない。むしろその逆で、「男なら国のために戦うのが当たり前」という空気に飲まれて未成年さえ年齢をごまかして志願した話や(市街を行進する兵隊の後を感化された市民が続き、先導された兵舎で入隊させられる映像は滑稽だが怖ろしい)、おびただしい数の死傷者が出る戦場の凄惨な現実を包み隠さず映し出す。今後はリアリズムを志向する戦争アクション映画のリファレンスになりそうな力作で、ジャンルのファンなら必見。それ以外にも、戦争を知らない大半の観客に、戦場の実態を体感させ考えさせる効果が確かにある。

高森郁哉

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