「倫理的に問題がある作品」閉鎖病棟 それぞれの朝 ボッケルさんの映画レビュー(感想・評価)
倫理的に問題がある作品
特に性暴力被害者、PTSD患者の方々にとっては非常に侵襲性が高く、少なくとも警告表示なしで公表するのは倫理的に問題があると考えます。
映画としては良い部分もあり、少なくとも私は目が離せなかったので、このサイトでの評価基準としては間違っているのかもしれません。しかし、他の方も指摘されているように、精神病院としての管理体制のずさんさや無責任体制、非現実性(たとえば「那須こころの病院」院長のブログを参照のこと)は、今後の精神医療の改善に対する作り手の無関心を表しています。
なぜ20歳未満の被害女性を、加害者のもとへ帰すのか?
病院内での加害が予測されるにもかかわらず、防止手段をとらず、病院が責任を問われないのはなぜか?
入院患者が失踪しても、探さない、警察に届けないのはなぜか?
挙げだしたらきりがありませんが、精神病院体制の酷さに対して、映画の中で批判を突きつけている形跡はありません。わずかに、いわゆる「犯罪者気質」や統合失調症に対する偏見を緩和する要素はあるものの、それを上回る害悪があると考えます。私には最近不幸があったのですが、この映画で救われるどころか心を打ちのめされる経験をして、苦しんでいます。もし性暴力被害者が何の気なしにこの映画を見てしまったとしたら、フラッシュバックやうつ状態に苦しめられる可能性は否定できないし、最悪、自殺の引き金にもなりかねません。
性暴力は「魂の殺人」とも言われるように、そこから這い上がるには、生まれ変わるほどの莫大な努力と時間が必要です。朝焼けの風景描写はそれを表しているのでしょうが、最後のシーンに現れる由紀になるまでに、血のにじむような心的奮闘と、どのような環境的な幸運があったのかをすっとばしてしまえば、なんにもわかりません。トラウマに苦しむ人々にとって、ほとんど役に立たないのではないでしょうか。