「それぞれの賛、それぞれの否」閉鎖病棟 それぞれの朝 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
それぞれの賛、それぞれの否
レビューを見ると、賛否両論。まあ、それも分かる。
精神病院を舞台にした所謂“感動ポルノ”。
瓶さん演じる秀さんは2度殺人を犯し、それぞれ事情も分からんではないが、他に選択肢は無かったのか。最初は話し合いや離婚、2回目は証拠の写真もあるのだから病院に伝え、あのクズ男に法の裁きを下すとか。(自分が法の裁きを下されてどうする!?)
どんな理由あれ、殺人は殺人。そんな慕われる秀さんを弁護する為、皆で奔走。ヒロイックな描かれ方。
その他、ツッコミ所や難点多々。(これについては追々)
でもまあ、それらに目を瞑り、感動的なヒューマン・ドラマとして見れば、個人的にはそう悪くなかった。
ある殺人を犯し、死刑執行されるも、幸か不幸か失敗して生き永らえた秀丸こと秀さん。
幻聴に苦しむチュウさん。
その他、多くの入院患者。
世間から離れた長野県の“丘の上”の精神病院で共同生活を送っている。
ある日、若い女性・由紀が入院してくる。
彼女は妊娠しており、入院早々病院の屋上から飛び降り自殺を図る。
奇跡的に軽傷で済んだが、お腹の子は助からず。でもそれ以前に、生きる気力がまるで見られず。
周囲に一切心を開かないでいたが、秀さんの陶芸をきっかけに少しずつ交流を持つ事に…。
死ねなかった死刑囚。
強迫観念の青年。
そして由紀は…。
親からのDV。義父からはレイプ。お腹の子は…。
それぞれの理由で心に傷を負った者たち。
それぞれの理由で家族から遠ざけられた者たち。
それぞれの理由で社会に居場所が無い者たち。
そんな彼らが見付けた傷の癒し。
そんな彼らが見付けた寄り添い合える相手。
そんな彼らが見付けた唯一の居場所。
全くの他人が不思議な縁で出会い、こうやって交流を深める様は素直に心温まる。
3人と昭八っちゃんが許可が下りて外出し、束の間の楽しさを満喫するシーンは見てるこちらも噛みしめるほどの幸せが伝わってくる。
それにしても、瓶さんもすっかり役者だ。肩書きは落語家でコメディアンでもあるが、減量し、終始車椅子、複雑で繊細な演技はそうそう出来るもんじゃない。また、ある理由から親を殺めるシーンは非常に哀しく…。
綾野剛も『楽園』に続きの難演を見事に体現。
でもやはり金星は、小松菜奈だろう。
感情を抑えたり、感情を爆発させたり、本作の登場人物で最も難しい役所。それでいていつもながら魅力的。
ビルの間で嗚咽するシーンは胸に迫る。
クライマックスの法廷シーン。秀さんをヒロイックに弁護する為に用意されたかのような感じも否めないが、あの涙の弁護と感謝の訴えは胸に響き、目頭熱くさせ、本作最大のハイライトだろう。
小松菜奈は同世代の女優でも難しい役が多い。演じる側にとっては辛く大変かもしれないが、それは類い稀な実力ある証拠。業界も我々も、彼女に期待しているのだ!
こういう作品には憎まれ役が必要。渋川清彦のクズっぷりと言ったら!
看護師長役の小林聡美がさすがのハマり役も付け加えておきたい。
平岩紙演じるキモ姉も良かった。
平山秀幸の手堅い演出。
リアルで生々しい厳しい現実と言うより、温かい眼差しで見つめた良質のヒューマン・ドラマ仕立て。
さて、ここから難点・不満点。
まず、入院患者たちの描写。それぞれ個性的で悲喜劇もそれなりに描かれてはいるが、掘り下げには浅く、単なる背景に過ぎない。もっと巧みに絡ませる事出来なかったものか。
それから、この病院緩すぎない? 娘に会いに行くのと、そんなに簡単に外泊出来るの? それで孤独死して、洒落にもならないどころか、大スキャンダル級の大問題。
渋川演じるトラブルメイカーだってそう。彼は何処が悪いの? この病院じゃなく、もっと適した別の入れるべき場所があったのでは…?
で、彼を監視していた看護士、勤務中に雑誌を立ち読みしたせいで。オメー何やってんだよ、懲戒処分モンだぞ!
先にも述べた通り、何故秀さんは証拠の写真を消すように言い、自分で殺人を犯したのか。おそらく由紀への辱しめを世間に見せたくない為だろうが、結局証人に立った由紀本人が何があったか話し、あれ、秀さんのした事って…?
病院を出た由紀がその後どう生きたか説明不足。証人に立った時看護士見習いになっていたが、身寄りも無く、金も居住も無く、一体どうやって…?
そして、“立ち上がる”ラストシーン。でも、後もう一幕欲しかった。
…以上、細かい点を言い出せばキリないので、この返で。
あくまで本作は、一度は社会から外れた人たちの新たな旅立ち。立ち上がり。明ける朝。
自分の心の傷と闘って勝った者、よほどの凶悪でない限り自分の罪を悔い改めた者、
そんな人たちにも、きっとやって来る。