「更生」ベン・イズ・バック U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
更生
この世界の片隅で、どこかの街角で、現在進行してるような話だった。
薬物依存症で施設に入っていた息子が帰ってくる所から話は始まる。
作品から感じるのは更生する事の難しさだ。
母親以外、誰も彼を信用出来ないでいる。
そして、また泥の中へ引きずりこもうとするかつての同類たちがいる。
彼は幾度となく嘘をつき、裏切ったのだろう。彼だけが救われる事を良しとしない人間がいるのだろう。
秀逸なのは、それら過去の出来事を一切映像として提示しなかった事だ。彼や周囲の言動から想起される事柄は脳内であらゆる方向に広がっていく。言うなれば今まで観てきたドラック関係の映画やその知識が、全て彼の過去に置き換えられるような印象なのである。
彼は常習者であると同時にディーラーでもあったようで、街の暗部に顔が効く。
とあるディーラーは、高校の歴史の教師だった。かつての同類は、薬欲しさに自らの尊厳にさえ唾を吐きかけるように憐れだ。
元締は薬に犯される事は一切なく、クリスマスを楽しみ、薬に群がる客たちを喰いものにし続けてる。
施設の外に一歩踏み出せば、そんな蜘蛛の巣が張り巡らされている…。
そんな環境の中、自分で自分を諦めそうな環境の中「あなたは大丈夫」と言い続ける母親の存在。どんなに心強い事だろう。
自分も親だから共感できる。
何とかしてあげたい。一心にそれだけを念ずる。
母親を取り巻く環境も過酷だ。
息子は犯罪者で薬物中毒が故にあらゆる問題を起こしてきたのだろうと思う。
だが彼女は常に彼に寄り添う。
励まし、認め、叱咤し抱き締める。
アメリカでは親の責任まで問われてなさそうなのが観てとれた。
一連托生ではない。
勿論、なんらかの軋轢はあるのだろうが日本ほどではなさそうだった。
村社会の悪しき風潮なのだろう…。
ジュリアロバーツ演じるところの母親は、弱さも強さ、優しさや愚かさも、どんな特異な感情も、一切特別なものではないと表現してくれているようで見事だった。
その感情をさり気なく切り取る編集の良さもあったのだと思う。
そしてラストカットが意味深だった。
映画は終わるが、彼と母親にエンドロールは訪れないとばかりに唐突に終わった。
おそらくそうなのだ。
一旦踏み込むと逃れられない実情を、このラストカットは訴えていたように思う。
薬物依存の恐ろしさを語ってくれる。
自分だけではない。
家族も友人も全ての関係者を巻き込んで、泥の中に突き落とされる。
抑止力になればいいと思うし、更生しようとする人への偏見が少なくなればいいと思う。
「覚醒剤やめますか?それとも人間やめますか?」
この映画を観て、上記の標語が過剰な表現でない事を知った。
観れて良かった…。