「Only one day」ベン・イズ・バック いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
Only one day
それにしても“プリティウーマン”だったジュリア・ロバーツが母親役としての主人公を演じる様は隔世の感を禁じ得ない。抑制された演技は紛れもなくベテランそのものであり、安心して鑑賞できる。
表題にもあるとおり、今作はたった1日間だけの時間枠で収められた出来事を撮してる作品である。しかしその一日が相当濃い内容であり、まるで何年もの様々な模様を一気に凝縮したようなイメージにも見て取れる作品だ。
薬物中毒で家族や周りの人間に多大なる迷惑と、取り返しの付かない惨事をもたらしてしまった息子が、クリスマスの日にひょっこり戻ってくるところからストーリーは始まるのだが、少しづつそのしでかした出来事が行動の端々で露見されてゆく。そんな息子に何とか救いの手を差し伸べたい母親の愛情がストレートにぶつけられていく展開である。只、その展開が一筋縄ではいかない転がり方は大変巧く組上げられている。ふと俯瞰でみたら、そんな展開になる事自体不自然とは思うのだが、鑑賞している間はその不自然は不思議と感じられない。端的に言えば捜査機関に依頼するべき事案を、複数の理由で断ち切ってしまい、自力のみで息子を捜すという無謀な行為をせざるを得ない状況設定を作り上げるのは合点がいく。犬がさらわれて、それを取り返す努力をすることで今一度家族の信頼を復活させたい子供と、助けたい母親。しかし義父も妹も懐疑的でありなんなら厄介者でしかない息子。それは世間の縮図であり、その偏見に戦い、挫けてしまう件もまたドラマティックである。心ない悪意に満ちた義父の言葉や、そもそも息子が薬物依存になったきっかけが、医者からの不必要な鎮静剤投与が原因という理不尽さ。しかも医者は認知症を患い、罪の意識さえ忘却の彼方。ドライブスルーで簡単に手に入る摂取器具。なかなか抜け出せない薬物の世界と、抜け出すためのグループセラピーの大仰さ。今作品には薬物を巡る数多くの課題をこれでもかと煮染めて観客に提示する作りでもあるのだ。
そしてせめて家族に危害を及ぼさないように、そして愛犬を助け出す事に執着することで自分の尊厳を取り戻すことを選択し、その気持のまま、自死を目論む息子と、かつてその息子から薬物の誘いの末、命を落とした子供の母親から、オーバードーズの対策薬を託された息子の母親は、ラストに息子を地獄から救いあげることに成功することでエンディングを迎える。結末の選択は息子の死という道もあり得たが、やはり今作品は最後は“救い”という選択を取ったことは意義深い。宗教観念も手伝ってのことでもあるが、“信じる”という行為がここまで犠牲を伴うということを否応なしに叩き付けられた作品である。時間を短く設定したことでのプロットはアイデアとして大変秀逸であった。