劇場公開日 2021年7月30日

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「チュウ監督の「おばあちゃん描写」がどうなるのかに妙にドキドキした一作。」イン・ザ・ハイツ yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5チュウ監督の「おばあちゃん描写」がどうなるのかに妙にドキドキした一作。

2021年8月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

予告編でミュージカルシーンに感動し、絶対劇場で観たいと思っていたけど、この期待を大幅に上回る作品でした。大群衆を俯瞰で捉えたシーンの迫力もすごいけど、終盤の、ニーナとベニーが歌う場面は、まさに映画的な趣向が凝らされていて、驚きと感動に満ちていました。

作中の歌は、登場人物の気持ちの表現に留まるものではなく、一定の物語的展開を含んでいます。それだけに一つひとつがかなりの時間となっているのですが、流麗かつラップの形式を取り入れた歌い方は心地よく、何度でも聞き返したくなります。また、ミュージカル場面を盛り上げるモブ達は盛り上がっているのに、その中心人物の心情は冷め切っている、といった相反する感情の衝突が織り込まれているところも、ドラマ部分の登場人物の言動と同調していて良かったです。

うだるような暑さに顔をしかめながら日常を営む人々、マイノリティゆえの悲哀など、特に序盤の描写から『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989)を連想しましたが、スパイク・リー監督ほどには直接的な不満を噴出させる描写は控えめで、むしろその抑圧と不平等の矛先がニーナという一人の大学生の体験として表現されています。もちろん主人公ウスナビ(この名前の由来にもまた、中南米系移民の境遇が反映されています)をはじめとした登場人物はみな魅力的に描かれているんだけども、ニーナの境遇、心理描写の生々しさ、迫真性は群を抜いていました。

ブロードウェイミュージカルの名作を『クレイジー・リッチ!』(2018)のジョン・M・チュウ監督が映画化した作品ということで、一体原作とどのように描写を変えているのか、機会があればぜひ、ミュージカル版を観て確認したいです。

yui