「美味しくない料理で満腹」イン・ザ・ハイツ Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
美味しくない料理で満腹
満腹はしたものの、ちっとも美味しくなかった料理だった。観終わって、そういう気分だ。
「予告編」にある道路上やプールでの“群舞”も、実際に観ると、屋外ゆえに人数を増やしただけにすぎず、特に面白くはなかった。
北米では興行失敗のようだが、さもありなんだ。
自分の一番の不満は、カメラワークだ。
俳優を追いかけ回したり、アップにしても、必ずしも効果的とは限らない。
カメラは常に動き回り、たびたびアングルが切り替わり、“じっくりと見せる”とか、“じっくり聴かせる”ということがない。
時には、アングルを固定して歌い手も動かない方が、歌い手にスポットライトが当たることを、この監督は理解しているのだろうか?
劇映画化して、ミュージカルの舞台からは離れているとはいえ、一定の“形式美”は必須だ。
音楽については、「平凡で単調。すぐ忘れてしまう。」という批判があるようだが、自分も同意する。
ラップ調ラテン音楽というか何と言ったら良いか分からないが、“断片的なサルサ調音楽”とか、“平凡なサンバ風音楽”みたいな、ジャンル横断的な音楽がダラダラと続く。
ラテン音楽らしい熱いパッションを感じないし、一つのまとまった楽曲と言えるものさえ多くない。
そもそもミュージカルなのに、バネッサ以外に、まともに歌える歌い手がいただろうか? (あとはせいぜい、ベニーとアブエラくらいだろうか。)
また、本作で扱われているのは、広い意味での「人種問題」・「移民問題」というよりは、特定のカリビアンだけにフォーカスした狭い世界だと思う。
アフロ・ラテン系の扱いに乏しいとか、必ずしもラテン系アメリカ人全般を代表していないという指摘もあるようだ。
勝手に移民として来て、故郷の旗まで店に掲げておいて、アメリカ市民としての権利を主張する姿は、自分のような平均的な日本人には、さすがに共感できないのではないだろうか。
本作品のテーマは、「今を生きる、若い“等身大”の移民カリビアンの姿と、彼らが直面する具体的な問題を映し出す」ことかもしれない。
しかし、ストーリーが弱くて、盛り上がりに欠ける。2組のカップルの話も、不自然な展開を見せる。
大学で差別を受けたからと言って、それで映画になるのか。
家賃が高くて、ブロンクスに転居しなければならないからといって、それで映画になるのか。
不動産が借りられないからといって、それで映画になるのか。
生まれ故郷(ドミニカ)に行こうと思ったが止めて、特に何という場所でもない、ごく平凡な“ハイツ”にとどまったからといって、それで映画になるのだろうか??
真面目な作品である点は、好感が持てる。
しかし、もっと歌と踊りで、押して押して押しまくるのかと思いきや、“まったり”とした感じで、登場人物が多くてややこしいだけの映画であった。