「ゆっくりお休み、ドクター・スリープ」ドクター・スリープ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ゆっくりお休み、ドクター・スリープ
今までで一番と言っていいほどのSKB(スティーヴン・キング・ブーム)の中、あの名作の続編が登場。
『シャイニング』ーーー。
ちゃんとキングによる続編小説の映画化で、映画オリジナルではない“正統なる続編”。
期待は自ずと高まる。
いつもながら地方映画館の地元では上映しなかったので、レンタルを待っていた!
自分は『シャイニング』は原作小説は未読で、スタンリー・キューブリック監督による映画版だけ鑑賞。
だからある意味、予想の斜め上を行く驚きの本作。
キューブリック映画版のようなじわじわ精神的に来るホラー…かと思ったら、作風もジャンルも全く別物!
あのホテルでの悪夢のような事件から40年…。
大人になったダニーは未だトラウマを抱え…という話の入りは王道的だが、今回話のメインとなるのは、キューブリック映画版では詳しく描かれなかった不思議な力“シャイニング”。
“シャイニング”で長く生き永らえている邪悪な集団“トゥルー・ノット”。
その集団に狙われる驚異的な“シャイニング”を持つ少女、アブラ。
ひっそりと生きていたダニーは、アブラと出会い、“トゥルー・ノット”と対する…。
キューブリック映画版ではダニー少年とハロランが頭の中で会話する超能力程度だった“シャイニング”だが、本作では、遠く離れた場所から違う場所を見たり、相手に幻覚を見せ罠を仕掛けたり、時には相手を衝撃波の如く吹き飛ばしたり、まるで“超能力者バトルロイヤル”。さらには“トゥルー・ノット”の女ボス、ローズは、“シャイニング”を持った者を拉致しては殺し、その力を吸い取る。
2つの事を思ってしまった。“シャイニング”って、こんなスゲー力なんだ…と、これ、本当に『シャイニング』の続編なの…?
…いや、そうなのである。
映画版はキューブリックが大幅に改変し、キングが批判した事はもはや語らずとも有名。
元々のキング小説は、もっと“シャイニング”について深く描かれ、本作もサイキック要素が濃い作風だと言う。
なので、これが本来の『シャイニング』。そしてその精神をしっかり受け継いだ続編。
それにプラスして、キューブリック映画版も継承している。
まず、ワーナーロゴに、あの音楽。ここだけでニンマリ。
開幕シーンは、あの事件直後のトランス母子。ダニー・ボーイも母ウェンディもハロランも、よくそっくりさんを見付けたなぁ…と、感心。
クライマックスは、待ってました! キューブリック映画版の開幕シーンを彷彿させる空撮、アレンジしたあの音楽、そして閉鎖されたがまだまだ異様さを放つホテルが目を覚ます…。
ホテル内部や迷路…よく再現した!
あの名シーンを彷彿させる壊されたドアからの“覗き”や斧も。
ダニーと言えば、“REDRUM”!
ホテルの“住人たち”もお帰りをお待ちしておりましたの如く、怖迎えてくれる。
極め付けは、バーで再会したのは…! こちらもよく見付けたそっくりさん!…と思ったら、何とあの“『E.T.』ボーイ”!
OPがあの音楽なら、EDもあの音楽。
また、キューブリック映画版では何か悪霊みたいなものが取り憑いているとしか解釈出来なかったが、実際はホテル自体が訪れた者を喰いものにしているという事が分かり、長年のモヤモヤが解消。
オマージュに溢れ、アンサーでもあった。
キング小説版とキューブリック映画版の双方に魅了され、双方の世界観を損なわず纏め上げる。
この難題に、マイク・フラナガン監督は見事やってのけたと思う。
本作の前にもNetflixなどでキング作品の映画化を幾つか手掛けていたらしいが、これからもますます当代きってのキング作品映画化の名手となるだろう。
ユアン・マクレガーは不思議な力の持ち主はお手の物。
レベッカ・ファーガソンがハットが似合うカッコいい美貌と存在感を発揮。でも、彼女率いる“トゥルー・ノット”が脅威的のようで大した事無いような…。
序盤、酒に溺れ、自堕落な姿のダニーにはショック。
あの可愛らしかったダニー・ボーイが…。
父と同じアル中に。ひょっとしたらダニーも、父と同じく狂気に呑み込まれていたかもしれない。
が、同じ力を持つ者や初めてと言っていい理解してくれる生身の友人と出会う。
過去やトラウマと向き合う。
父の前で、酒を断つ。
かつて、ハロランや母が自分を守ってくれたように、今度は自分がアブラを守る…。
働くホスピスで、“シャイニング”で死期間近の人々を慰め、看取る。ある老人に言われる。“ドクター・スリープ”と。
ダニーもまたそう。
トラウマを乗り越え、やっと心から眠れる。
ゆっくりお休み、ドクター・スリープーーー。
本作は高評価を得ながらも、興行的には振るわず。
それも何だか分かる気がする。
キング小説版には忠実かもしれないが、キューブリック映画版のような作風を期待すると…。
でも、作風の好みや賛否両論もまたキング作品らしい。
正直キューブリック映画版の『シャイニング』の方が好きだが、こちらはこちらで、オマージュやキングらしさがあって面白かった。
鑑賞後に、スティーブン・キングが自分自身の救済の物語でありことを知りました。
キングの父親は、アル中で借金まみれで失踪したみたいです。まさにジャックそのもので、ダニーはキングですよね。結局、アル中になってしまったキングは、自分が父親みたいにならないようにこの物語を書いたそうです。
だから、ラストにより納得ができました。