「Wendy......I'm home!」ドクター・スリープ Naakiさんの映画レビュー(感想・評価)
Wendy......I'm home!
2004年8月9日のBBCnewsの社説から、”Shining named perfect scary movie”(The secret of making a scary movie has been calculated by university experts. )数学者もビックリの完璧な恐怖映画とされた前作「シャイニング(1980)」をIndieWireというサイトの2016年2月3日の社説から原作者のスティーブン・キングがこの映画のことを”大きくて美しいけれどエンジンのないキャデラック”と揶揄していたが....
「IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。(2019)」と同じ映画会社であるワーナー・ブラザーズが製作し、しかも「It」と同じ原作者の2013年に出版された同名の小説をもとにしている本作。ワーナー自体、この映画の制作にあたっては、計画だけは立案していたものの予算はまだ考えていなかったのに2017年の映画「IT イット “それ”が見えたら、終わり。」の大成功のおかげで、この映画が早くも日の目を見る運びとなる。
原作者であるスティーブン・キングがインタビューに答えている。
「ダニーが成長したときに何が起こったのか、25歳の時は、また35歳になった彼がどのようになったのか?といつも不思議に思っていたので、伝えるべき物語があると感じました…私が見たかったのは、崖っぷちに追い詰められた人がどうなるのかという事です。最終的にどん底に到達するまで、人って、本当に立ち直ることができないんです。そして、私はスクリーンでダニーならどうなったかを見たかった訳です。」
物語は、キャンプ場での出来事から始まる。キャンピングカーから一人の少女が降りてきて散歩に出かけようとすると母親から”あまり遠くに行かないで”という言葉を聞いてか聞かずか、湖のそばまで来るとシルクハットとしては腰の低い帽子をかぶったスレンダーで奇麗な女性が切り株に座っていた。彼女から造花のような花をプレゼントされるといつの間にか何処からともなく異様な感じの人に囲まれてしまっていた少女。造花、特に死を意味する場合もある。
話は、1980年にフラッシュバックし、ディック・ハロランによって邪悪な’モノ’を封じ込める方法を教えてもらったダニー。その子供のダニーが、大人になっても彼の精神は、’オーバールックホテル’での惨劇以来病んでいて酒浸りの生活を送っていた。それでも彼は、心機一転、別の場所で生活を始めて、やり直そうとする。ある町に着くと直ぐに友人もでき社会復帰のプログラムも受け、新しい職にも就いた。その職場であるホスピスでは、ターミナルの人の心を癒したことから、彼は人知れず「ドクター・スリープ」と呼ばれるようになっていたが、そんな彼の事とはよそに、別の場所では、人の死の瞬間に口から吐き出される”steam”と呼ばれる人の生気であり、”Shining”の元でもある水蒸気のような気体を集めているローズ・ザ・ハット率いる”True Knot”というカルト集団が、その”Shining”の能力のある子どもを捜していた。
ある日ダニーのアパートの黒板の壁に13歳の少女アブラからチョークで書かれた文字が贈られてきていた。彼女は遠くからでもダニーの過去にはなかった現在の優しい心がわかるほど、”Shining ”の能力が高かったが、その能力の高さゆえに、ローズ・ザ・ハットの目に留まるところとなり、最大級の標的となってしまう....
映画紹介をする多くのサイトが、この映画を指して「シャイニング」の続編と言っているけれども....残り30分ほどの’オーバールックホテル’を忠実に再現したかのような場所で、前作の有名なエレベーターや迷路の場面を映像の中に取り入れたり、ジャックがドアを斧で叩き割ろうとした向こう側で、恐怖におののく妻ウェンディを別の女優さんで再現したりもしているが、個人的には徒労に終わっていると思える。何しろウェンディ役のシェリー・デュヴァルさんは監督の完璧主義が引き起こす厳しい叱責や何回ものテイクの撮りなおしによって、半分ノイローゼ状態になってしまっていた。そこまで彼女自身が自分を追い込んでまで取り組んだ成果が、この演技ができたといわれた名場面なのに....!しかもオマケのようにジャック・ニコルソンのクリソツさんをホテルのバーテンダーで登場させるとは...。最近観た「ターミネイター6」のように少年時代のジョン・コナーを完璧なCGIで復元したような高価な技術を使えとか前作の監督のような美的主義を追求してクリソツさんを使うなとまでは要求しないけれども趣味の悪さが目立つ。(ダニーに出されたウイスキーが’ジャック’・ダニエルって?)
その上、前作では敢えて監督が映画全体のシチュエーションを曖昧な設定にしたシナリオに書き上げたのは、”Shining”という特殊能力を前面に出すのではなくて、’オーバールックホテル’自体が、2つの次元の歪に立っているような場所として、また別の次元同士の緩衝地域として特殊能力が芽生え始めたダニーがその環境に反応してしまい、ナイフを持ちながら”MURDER”の反転文字を表す”REᗡЯUMレッド・ラム、レッド・ラム....”とつぶやくシーンにつながるはずが、この映画では意味が分からないところで登場している。つまり、原作者の自尊心から考えると、この映画は、1980年に公開されたキューブリック監督の映画を暗に否定し、スティーブン・キングが自ら脚本・製作総指揮をしたTVドラマ「シャイニング(1997)」のほうの続編という事か...?
ラストのシーンを含めて、納得ができないのが、ローズ・ザ・ハットというビランの存在。強力な”Shining”能力を持っているのにもかかわらず、人間臭くて浅はかな何者でもなく、しかも恐怖の’きょ’の字も、冷徹さの’さ’の字もない彼女のチンケぶりが、どうしても観ている者をドン引きにさせてしまっている。何故、そのような設定にしたのか? 疑問? 低能で、生々しくて、すぐにやられて、それで”終わり”! 服装もメイクも含めてセンス無し。言いすぎました。謝るくらいなら書くなってか?
ユアン・マクレガーの迫力という言葉が存在しない演技が、ジャック・ニコルソンの演技を引き立てるだけで、ただ単なるSci-Fi・サイキック映画に成り下がってしまっている印象が強く感じてしまう。
そんな辛辣なことはさておき。Seattle Timesが端的に評価をしている。「 『ドクタースリープ』は、緊張感、サスペンス性、寛容、犠牲といった言葉で表す記念碑的な成果であり、すぐに忘れることが、できない映画です。」というように評論家が支持をしているのはもちろんのこと、もっと多くの視聴者が支持をしている本作。安上がりに仕上げたようにも感じるのだけれども...?
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