「それでも闘い続ける」黒い司法 0%からの奇跡 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
それでも闘い続ける
アメリカ公開は昨年末、日本公開は今年の2月。
今アメリカではコロナ感染と共に、白人警官による黒人青年暴行死、それに対しての抗議デモが全米過去最大級に拡大。
タイムリーな今に、レンタルリリース。
今回のアメリカ社会の問題もいずれ映画化されるだろうが、本作も実話に基づく作品。
ハーバード出の若き黒人人選弁護士ブライアンは、エリートの道を蹴って、アラバマ州へ。
あの『アラバマ物語』の舞台となった町だが、皮肉にも1980年代のアメリカ南部のそこは、人種差別の掃き溜め。
白人は勿論黒人からも白い目。エリートが何故こんな地に…?
冤罪の死刑囚、貧しい人々の支援を買って出る。
死刑囚監房で多くの死刑囚と面会する中、ある一人の死刑囚と出会う。
彼の名は、ウォルター・マクミリアン。通称、ジョニー・D。
18歳の白人少女を殺した罪で死刑。
…が、話を聞き、事件の概要を調べてみると、衝撃!
有罪となるにはあまりにも不確かな証拠。
デタラメな証言。
家族や知人によるアリバイもある。
逮捕され、裁判もナシにこの死刑監房へ…!
100%の冤罪。100%の人種差別。
この地では、白人は皆、黒人にこの囚人服を着せたがっている。
この地では、白人は皆、黒人を死刑にしたがっている。
見てたら怒りしか沸いて来なかった。
こんな差別が平然とあっていいのか!
これがあの『アラバマ物語』の舞台の現状か!
斬新な作品ではないものの、ド直球のストーリー、ド直球の裁判モノ!
冤罪を晴らし、人種差別と闘う主人公の不屈の精神。
何度も何度も何度も何度も無罪の訴えを無視され、諦めかけていたジョニー・Dも再び闘う決意をする。
当初はこの青臭い理想主義のハーバード出のお坊っちゃんを信じていなかったが、奔走する彼の姿に…。
ブライアンもまた、諦めないジョニー・Dの姿に…。
築かれる絆と、友情。
何故ブライアンはこんな苦闘に身を投じる…?
一見エリートのブライアンだが、生い立ちはこの地の黒人たちと同じ。
世界を変えたい。
人種差別という、敵。
エンディングの実録映像で、ある冤罪黒人死刑囚が白人から言われた「有罪者は顔で分かる」。
仰る通り。白人保安官、白人検事のムカつく顔と態度。
権力を使って、ことごとく妨害。
どっちが罪だ?
差別が蔓延るが、探せば中には、無実を証明出来る証拠や協力者も居る。
それは鬼に金棒レベル。いや、勝機のチャンスはほぼ確実と言って良かった。が…
阻まれ、打つ手ナシに追い込まれる。
そんな時、再び希望が…。
ピンチと逆転の連続。裁判モノはこの二転三転があってこそ!
本当に見せ場も醍醐味もたっぷり!
実力派たちの熱演…いや、“闘演”と言った方がいい。
一人一人に誠実に寄り添い、決して諦めず闘い続けるブライアン。マイケル・B・ジョーダンの真っ直ぐな姿。
言動一つ一つでジョニー・Dの境遇を体現。ジェイミー・フォックスのさすが見事な名演と存在感。
ブライアンの協力者エバを演じるブリー・ラーソンも劇中さながら好助演。
余談だが、ヒーロー映画出演経験ある3人(の内2人は敵役だったけど)。今作では現実社会の悪と闘う狙ったキャスティング…?
メイン以外の人物やエピソードも印象的。
ジョニー・Dの隣の房の老黒人死刑囚、ハーブ。ベトナム戦争のPTSDから我を失い爆弾を作ってしまい、それによって…。PTSDや犯した罪に苦しみ続け、ブライアンの尽力も及ばず、遂にその時が…。涙ナシには見られない!
デタラメな証言でジョニー・Dを死刑にした白人囚、マイヤーズ。トラウマや白人権力に脅迫され…。自分の保身が優先だったが、この男にも自責の念。前証言を撤回してくれるか、ジョニー・Dの命運が懸かる証言席へ…!
実話基なので結末は分かり切っているが、
憤りを感じ、ハラハラスリリング、そして熱いメッセージと感動。
約140分、喜怒哀楽を揺さぶられた。
期待以上の見応え!
死刑囚はそれほどの罪を犯したのだから、その罰を受けて然るべき。
しかし、中には…
真実をねじ曲げられ、不正や差別によって、不条理に死刑宣告を受けた人たちが今もたくさん居るだろう。執行された人たちも。
作品の舞台では、黒人がほとんど。
その怒り、悲しみ、無念…。
アメリカで奴隷制度が廃止されて100年以上。本作の時代から約40年。
にも拘らず、アメリカでは今も尚続く人種差別。
これはもう単なる問題ではない。アメリカの闇だ。アメリカの病気だ。
それを正さなければならないアメリカのトップが、人種差別主義の独裁者。デモを辞めなければ軍を出動させるなんて、それを裏付ける言動だろう。
いつか、そんな無念が晴らされる日は来るのだろうか…?
時に真実は歪曲され、理想だけではやって来ない。
希望を諦めず、闘い続ければ、その日はきっと…。