「ジョーカーの誕生秘話とするなら社会との接続が弱い気がします」ジョーカー nyaroさんの映画レビュー(感想・評価)
ジョーカーの誕生秘話とするなら社会との接続が弱い気がします
ヒューマンドラマとしては完成度が高いと思います。虚構と現実のはざまに翻弄されるのでアクションなどはないですが面白く見られます。ただ、その虚構があるから見られるのであって、ストーリーそのものに複雑性がないので単純といえば単純です。
大きな違和感があります。この作品がバットマンに出てくるジョーカーの誕生物語であるということを考えると、ジョーカーの狂気の理由が社会ではなく母親の問題に帰結してしまっていいのかですね。
ゴッサムシティという街の不条理は描かれます。市長であるウエィンの父も登場します。ごみ処理とスーパーマウスの問題も資本主義の汚さを象徴していると思います。でも、ジョーカーとはつながりません。つながっていると読むことは可能ですが、それが映画の内容にはなっていない気がします。
心の病気故にタガが外れた男の不幸は、他責にはできづらいのです。彼の不幸には同情できるかもしれませんが、社会のせいにはできません。もちろん、ひどい社会の人間の振る舞いは描かれますし、そういう環境が彼を生んだともいえなくはないですが、それ以上に母親問題が大きすぎて他がかすみます。
そして、なぜ彼がコメディアンなのかというジョーカーのアイデンティティの中核が描かれません。笑う病気であるということと合わせて、後付けの構造になっています。この点はジョーカーの誕生物語ではなくても、描いてほしかったところです。
ただ、1点非常に良いところ。すごく象徴的なのは、彼の狂気は福祉の崩壊から始まって銃によって変質することです。暴力を受ける側から与える側に。これは現代アメリカの痛烈な批判にはなっているし、厚みの1要因にはなっていると思います。
スピンオフでなく例えばアーサー個人が大犯罪を犯す理由を描くなどの単発の作品ならいい出来だと思うのですが、ジョーカー誕生秘話ではない気がします。そして、笑いから逆算したコメディアンという設定が浮いている気がします。
そして、バットマンというビッグネームを使ったことが大きな減点要素ですね。