劇場公開日 2019年10月4日

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「ホアキン抜きにこの映画は成立しない」ジョーカー うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0ホアキン抜きにこの映画は成立しない

2022年5月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

もしもの話だが、バットマンなど存在せずに、ただの一人の狂人を見つめ続ける映画があったとしたら、面白いだろうか?精神に疾患を抱え、仕事に支障をきたし、家族を失い、やがて社会に牙をむいていく。

過去にそんな映画をいくつか見た気もするが、ここでは取り上げない。

何と言っても、この映画で見るべきはホアキン・フェニックスの、その狂気じみた演技だろう。おそらく、映画賞を総なめにするほどに魅力的だ。われらがダークナイトが彼と対峙したときに互角に渡り合えるか、今から心配だ。

しかし、考えてみれば不思議ではある。

ジョーカーは、いかにしてジョーカーになったか?それを一本の映画にまとめたというのに、彼は我々の前に姿を現すや否や、消え去ろうとしている。彼は今から重罪人として裁きを受け、一生刑務所を出られないはずだ。ゴッサムシティの闇の世界にどうやって君臨するのか、今のところその特殊能力はかけらも現れていない。

いわば、この映画は、我々がよく知っている人物を掘り下げ、強大な悪の道に染まっていくほんのさわりの部分だけを描いた物語に過ぎない。その描き方は巧妙で、強い刺激を伴う。

ここからは想像に過ぎないが、映画会社としてはこの映画の出来栄えに満足しているとは思えない。きっと魅力的な「敵」(この場合「正義の味方」とも言う)が登場しないゆえに、娯楽性に欠けるからだ。その、悪と正義の迫力のバトルを描き出すことに、映画本来のダイナミズムを発揮すべきであって、残念ながらこの映画にはそれがない。

独立した一つの作品としてみたら、欠陥があるとしか言えない。R指定にするまでもなく、映画館には、いい年したオッチャンのサブカル好きが押し寄せたにとどまり、若い女性の姿はかけらもない。そんな空間が居心地よかったりもするが、一部のマニアに喜ばれるカルト作品にしておくには惜しいほどに、パワフルで印象深い。

もうひとつ。蛇足に過ぎないが、興味深い現象として、ここ数年のトレンドに、『イット/それが見えたら終わり』で描かれた、ピエロあるいはクラウン恐怖症。それから、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が挑戦した、あえて懐古主義的に今じゃない時代をふりかえる手法が、この映画でも取り上げられた。この2作と本作の類似点は非常に多い。そしてもちろん、ノーラン作品の『ダークナイト』抜きに、この映画は語れない。

ジャック・ニコルソン。ヒース・レジャー。そして、一瞬で強い印象を残したジャレッド・レト。いずれも魅力的だが、現時点でホアキンにまさるジョーカーはいない。そんなことを考えさせられた映画だった。

2019.10.7

うそつきカモメ