「わかりやすい動機という落とし穴」ジョーカー ローチさんの映画レビュー(感想・評価)
わかりやすい動機という落とし穴
ジョーカーという男はこんなにもわかりやすかったのか、と驚いた。バットマンシリーズはそれぞれ独立した世界なので、今回のジョーカーはこういう解釈なのだと言われてしまえばそれまでだが、本作はノーランの『ダークナイト』に近いリアル路線の世界観だったので、ノーラン版の印象をそのまま引きずって観ていたので驚いたのだ。
本作のジョーカーの世間を憎む動機はとてもわかりやすい。ノーラン版では、そのようなわかりやすい動機は示されなかった。ノーラン版は、なんというか、「混沌」そのものを愛してるような印象だった。口が裂けている理由がいつも違うのも、動機なんざどうでもいい、俺は混沌自体が好きなんだという風に見て取れた。その底知れなさに魅力だった。今回のジョーカーは、ある意味底が知れている。共感可能な理由も描かれる。実際共感を覚える人もたくさんいるようだ。
しかし、ちょっと待てと思う。その共感できるストーリーそのものが嘘かもしれない。本作が上手いのはここだ。映画全体を嘘かもしれないと提示することで、観客を混沌に落とし込む。この映画のそんな振る舞い方そのものがジョーカーっぽい。
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