「絶望の果てにあるあっけらかんとした心の荒野」ジョーカー MPさんの映画レビュー(感想・評価)
絶望の果てにあるあっけらかんとした心の荒野
レトロな色調で映し出されるゴッサムシティの根底で生きる大道芸人、アーサーの、まるで人の不幸をまとめて請け負ったような日常に、まず惹きつけられる。誰しも、彼ほどではないにしろ、嫌なことが連続して起きることはあるし、そんな時、悲しむよりむしろ笑ってしまうことだってある。ついてない現実から逃避するため、愉快な妄想の中で思いっきり自分を解放してみたくもなる。トッド・フィリップス×ホアキン・フェニックスの「ジョーカー」は、観客の心の足を鷲掴みにして、物凄い力で地獄へと引き込もうとする。かつて、コミックス上のヴィランにこれほどシンパシーを感じたことがあっただろうか?そうして、これまで誰も描かなかった「なぜ」に踏み込んだ本作は、絶望の果てにある妙にあっけらかんとした心の荒野を大都会のど真ん中に設定して、人の世の悲喜劇を新たな形で提示する。今年一番の強烈な映画体験。そろそろ始まるアワードシーズンを間違いなく牽引する1作だ。
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カンタベリーさんのコメント
2024年5月31日
第76回ヴェネツィア国際映画祭でプレミア上映され金獅子賞を受賞、第92回アカデミー賞では、作品賞、監督賞、脚色賞を含む最多11部門にノミネートされ、フェニックスが主演男優賞、ヒドゥル・グドナドッティルが作曲賞を受賞した。