「現代社会の闇にきわどく切り込んだヴィラン映画」ジョーカー Ko Fuさんの映画レビュー(感想・評価)
現代社会の闇にきわどく切り込んだヴィラン映画
閉塞的な空気に、先の見えない社会不安。国民同士の憎み合いに、貧富の差からくる憎悪。そして孤立して這い上がれない孤独な人々に、それを食い物にする社会悪。政治は福祉を蔑ろにし、それに頼らねばいけない人々は見捨てられたと絶望すらする。
現在のアメリカに限らず、様々な国でこれらの事が渦巻き、そして問題視されている。フィクションではなく、それらは現実として存在し、少なからず日本にもその兆候が表れている。
病気の母の看病に、いつクビになるかもわからないような日雇いの仕事。世間の白い目に耐えながら自身も薬に頼り、誰からも認められなくて存在価値を見いだせない。それだけを聞いて、「そんな奴はフィクションの映画の中にしかいない」だなんて誰が言えるだろうか? そんな人間は世界中にいる。それが現実で、それが社会の歪みなのだ。
今作のジョーカーは、それらの歪みを一身に受け、そして狂気という形で発露する象徴として描かれているように思う。
「ダークナイト」のジョーカーが狂気により社会を混乱に陥れる存在だったのとは、まるきり逆のキャラクター性を持っていると言っていいかもしれない。人物像がはっきりとしない不気味な存在だったジョーカーを、逆にこれでもかと言いたくなるほどに理不尽に、同情するのも嫌になるほどに人間的に描き、最終的に理解不能のヴィランとして再誕させる。この作業のなんと怖ろしい事か。
バットマンの基本ストーリーにも大きく外れていないシナリオ展開にも驚いた。描かれているのはゴッサムなのに、そこは見たことのある現実で、だがキャラクターものとして破綻していない。
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