「絶賛できる前日譚、でも賛美してはいけないJoker像」ジョーカー LittleTitanさんの映画レビュー(感想・評価)
絶賛できる前日譚、でも賛美してはいけないJoker像
公開日、朝一で鑑賞しました。
読後感が半端なく充実した映画でした。
最初からネタバレしてる前日譚。
ラストには悪が開放されるのは、周知の事実。
にも関わらず、どこかで観たことあるという既視感は微塵もなく、Joaquin Phoenix演じるArthurの苦悩を、追体験するような映画でした。
個人的なピークは、やはり母の素性が明らかになってからの展開でした。
自分の笑顔を肯定してくれ、守るべき存在であった母が、脳に障害が残るほどの虐待を傍観していたとは。
実の父の判明に抱いた僅かばかりの希望も、実際には母の妄想。
最近できたはずだった恋人との交流も、母から受け継いだ妄想の賜物。
加えて、かつて自分を褒めてくれた大物司会者にも、失敗したライブを小馬鹿にされる。
いや、そもそも大物司会者との交流の記憶そのものが、妄想なのかも。
全ての拠り所を失ったArthurは自分に嘘を付くのを止める。
遂には、衆人環視の場で、怒りや衝動を剥き出しにして殺人。
この辺の感情の流れに無理がなく、"Dark Knight"の狂気に繋がる前日譚として完璧でした。
ただ、ただ、間違えてはいけないのは、だからと言って彼の後半の振る舞いに肯定できる部分はないということ。
本当に母を殺す必要があったか?
虐待の末、子供に突発的に笑ってしまう脳障害を追わせた罪は重い。
老いた母の介護の負担も大きかったろう。
でも、母の罪を知って絶望したのなら、病院に置き去りにして去ってしまえばいい。
ここまで特別な事情がなくとも、子供は親から巣立つもの。
親殺しという決着はやはり理解できない。
また、Randallへの復讐にも正当性はない。
たしかに銃を押し付けてきて、仕事を失うキッカケや、"Wall Street Three"を殺すキッカケにもなった。
後で、自身に責任が及ばないように、上司に虚偽の報告もしたのもRandall。
母の死を悼みに来たと思いきや、銃の件の口止めしようとしたのも、いけすかない。
それでも、銃を小児科まで持ち込んだのも、踊っていて落としたのも、Arthur自身のミス。
地下鉄での惨劇も、威嚇射撃程度に収めるか、最初の一撃が人に当たるのを避けられなかったとしても、もみ合ってたせいと主張できたし、正当防衛の主張も十分可能なケース。
後の2人を射殺したのは、明らかにArthurの意思。
Randallを好きにならなくてもいいけど、殺すまで恨まなくても。
もちろんJokerは、そもそも純然たる悪役であり、理由なく惨殺するキャラであり、正当性があるはずもない。
ただ、本作は没入感が素晴らしく、Jokerにアンチヒーローとして肩入れしたくなる気分も湧くので、映画って怖いなとも思いました。
本末転倒かもしれないけど、Joaquin Phoenix版のダークナイトも観てみたいです。