「寓話でもアナロジーでもない、ファンタジーの延長線として見るべき」ボーダー 二つの世界 映画を見たり見なかったりする人さんの映画レビュー(感想・評価)
寓話でもアナロジーでもない、ファンタジーの延長線として見るべき
ギレルモ・デル・トロが絶賛しているように、これはファンタジー世界の存在が現在にも存在したら、というifを描いた作品。
色々な仕掛けからルッキズム、LGBTへの差別、マイノリティーへの迫害、自然破壊などのテーマに結びつけたくなるが、気を付けなければいけないのはそもそもの舞台がファンタジーなのだからそれを基に現世でのひずみをあれこれ言うのは軸が外れている、ということ。もう少し言葉を足すなら、そういう話の展開をしたくなるように、「炎上」しやすい設定をちりばめている作品なのだから、衒学的にそれに踊らされてはいけない。
トロルという存在は北欧に伝わる怪異であるが(ムーミンもトロルだね)、そもそもは旅人を襲う異形の山賊だった。彼らは垢にまみれ、毛皮で身を囲い、山や橋で人を襲うので、人間とは違うそういう種族がいると思われていたが、実のところは単なるアウトローだった。
しかし、そうではない世界、本当にトロルが存在した世界の延長線上にこの映画の舞台は存在する。
トロルにとって人間は別種なわけだから、ネコの仔が生まれたらさっさと里子に出すように、人間は彼らにとって倫理の埒外に存在する。なので児童ポルノに加担してもそこに呵責は無い。
主人公は人間世界で育ったので人間世界のルールが染みついているが、ファンタジーの世界なのでそれすらも「君は人間界で育ったからね」と一蹴される。
そういうifの世界の話。リアリティを持たせるために現世の歪を倍増して意図的にちりばめているけど、それは作り手の意図だということを意識すべき。
(進撃の巨人を読んで現代社会の不均衡を嘆くのと同じこと)
そんなファンタジー作品として、リアリティあるなあと楽しく観ました。カタルシスは無かったけど、トロルがまだ存在して世代がつながったという表現があったので、監督はそれを以てカタルシスとしたかったのだろうなあ。