劇場公開日 2019年10月11日

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「グロテスクなのにどこまでも美しいスウェーデン版『妖怪人間ベム』」ボーダー 二つの世界 よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0グロテスクなのにどこまでも美しいスウェーデン版『妖怪人間ベム』

2019年11月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

フェリー発着港に勤めるティーナは人の感情を嗅ぎ分ける特殊能力で違法な物品を持ち込もうとする人間を確実に見つける有能な税関職員。彼女は幼い頃からその特異な容姿ゆえに孤立し、今は見た目からクズ丸出しのドッグトレーナー、ローランドと暮らしながら、ケアハウスにいる父を見舞う孤独な女性だが、ある日児童ポルノ映像を持ち込もうとした男を捕まえる。その能力を知った警察は児童ポルノ業者を検挙するためティーナに協力を要請するが、同じ頃タッパーに詰めた虫の幼虫と孵化器を持った奇妙な男ヴォーレと知り合ったことから彼女の日常に得体の知れない影が忍び寄ってくる。

原作・脚本は『ぼくのエリ』の原作者でもあるヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト。『ぼくの〜』に漲っていた背筋が凍るほど冷たい孤独感と異形の者に対する慈愛の念が本作にも通底していて、幼い頃からティーナが抱えていたある疑問に対して投げつけられる答えが示す希望と絶望、疎外感に苛まれながらも誰を恨むでもなく淡々と生きてきたティーナが警察に協力する中で体験する人間の醜さ、ヴォーレの導きで覚醒したティーナの新たな能力が誘うおぞましくも崇高な運命といったものがじんわりと胸に沁みます。かなり的外れかつ下卑た喩えで言うとスウェーデン版『妖怪人間ベム』、自分自身の生き様について考えさせられるグロテスクでありながらどこまでも美しい作品。これが18禁になってしまうという事実が日本が何十年かけても祓うことの出来ない闇を表しているわけですが、同時に18禁という足枷を敢えて受入れ一切の忖度なしに無修正で公開した配給会社の英断に心から感謝しています。まぎれもない傑作です。

よね