「またやった!ジャンル映画の新境地開拓!」ボーダー 二つの世界 ヘルスポーンさんの映画レビュー(感想・評価)
またやった!ジャンル映画の新境地開拓!
「ぼくのエリ 200歳の少女」の限定再上映に続けて見ました。
まずは映像の美しさだ!
「ぼくのエリ」は辺り一面の雪景色がとても印象に残っているが、
本作「ボーダー二つの世界」では、森林の緑!緑!緑!の美しさがとても印象に残った。
また、ところどころで差し込まれる停泊中のフェリーの映像。主人公の勤務先だが、その情景はまるで主人公の船出をずっと待っているような演出でとても好きだ。
そしてジャンル映画としての新境地開拓!
伝説上の存在であるトロールの語り継がれている特徴「特徴的な鼻と嗅覚」、「人間の家に忍び込み、子を取り替える」などはキチンと抑えつつ、うまく人間の日常に溶け込せている。(「ぼくのエリ」でもヴァンパイアの特徴はしっかり抑えつつ、芸術的であり文学的でもあり、リアリティをももった演出になっていて、ジャンル映画としてのヴァンパイア映画において革命的だった。)
ボーダー(境界線)というテーマがもたらす文学性!
主人公は性別や人というあらゆる境界を越えていく。
人間の価値観をもったトロールが、人間の価値観とトロールの価値観の境界線に立った時、観ている側のこちら側の価値観まで非常に揺さぶられる。
正しいこと、悪いこと、気持ちの良いこと、気持ちの悪いこと、その境界線を引いたのは誰なのか?
なんの疑いもなく人間の文明社会に生きている私にとって、この作品が突き詰めるテーマなど考えたこともない視点で正直驚いた。自分が今まで信じてきたものは果たして本当に信じられるものなのか。
トロールに対しては(当たり前だが)人間の価値観が一切通用しない。トロールと人間に境界に立った時、どちらが正しくてどちらが悪いのか判断することなど不可能なのだ。ラストで主人公が人間側に立ち、ヴォーレを倒す展開にならなかったことが素晴らしい。
こんなことを想像できてしまう作者の視点はとても貴重である。
そして、その映像化作品を妥協せず無修正版のまま配給した日本の映画業界は「ぼくのエリ」の時より少し前進したんじゃないかと嬉しく思っている!
*「ぼくのエリ」では作品の非常に重要なシーンでボカシを入れて配給されてしまい、あらゆるところから大ブーイングを浴びていたが、本作ではリベンジ果たしましたね笑