「子孫繁栄」ボーダー 二つの世界 KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
子孫繁栄
どうしたって醜いその姿形、人の心を嗅ぎ分け隠し事を暴く日常、明らかに異質な彼女の正体とは。
知りたいことを全てきちんと示してくれる映画で良かった。
子孫繁栄、自分たちの種族を絶やさない、という本能について真正面から考えさせられる。
カゲロウやセミなどを見る度に、「なぜ子孫繁栄のためだけに生きているのか」と昔から疑問に思っていた。
その答えを少し実感できたような、理屈でまだ説明できないけれど、この映画の中で確かにその感覚を飲み込めた気がする。
子供の頃から疎外され孤独だったティーナ。
共に過ごす人を見つけてこの世界に馴染んだ生き方をしてみても、拭えない違和感。
長年積み重なったそれらがヴォーレと出会ってスッと消えたときの「しっくり来る」感覚にほっとした。
ヴォーレの不気味そのものな言動に対する嫌悪感は相当なもので、最初はこの人が敵か何かかと思った。
執拗に気にしていた彼の匂いは、思えば今までの何よりも特別なもので初めて嗅ぐものだったんだろうな。
遺伝子レベルで惹かれ合う二人の生々しい描写には思わず釘付けになる。
熱いシーンなのにゾワゾワしてしまう。
見てはいけないものをまじまじと凝視してしまったようで、謎の背徳感が生まれた。
そしてまさかの生理現象。この手の気持ち悪さが好き。
このままロマンスとして進むのかと思いきや、サスペンスの方向にまた流れていく物語。
バラバラに思えたエピソードの重なり方がとても上手くてゾクゾクした。
宙ぶらりんのまま終わらせないで〜と思っていたけどしっかり回収してくれる安心感。
冒頭と締めの対比も好き。
自分の正体を知り、やっと生まれたアイデンティティをどう扱い持って生きるのか。
今まで常に持っていた倫理観や価値観をどう変化させて生きるのか。
やっと自分だけの生き方を決められる時に下した選択。悩み苦しみぶつける様は、まるで遅めの思春期が訪れたようだった。
ごちゃごちゃした問題はたんまりあるけれど、結局シンプルな愛情に勝るものは無いのかも。どうかどうか幸せに。
映像のインパクトが強い映画だった。
スウェーデンの美しい自然とその中で走り回る裸体、強調される動物の存在、もちろん諸々の造形も。
もしかしたら今この地球にもひっそりと紛れた異種のモノがいるのかもしれない、なんて考えるとときめくものがある。
彼らが怒りや憎しみのために生きていなければいいけれど。
この星を支配していると思い込んで人間なんて隙を突かれると弱いもの。