魂のゆくえのレビュー・感想・評価
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現代版タクシードライバーだからこそ
アメリカの狂気
主人公が怒りと狂気に取りつかれていく物語の構造は、『タクシードライバー (1976年)』そっくり。
ただ、ドライバーと牧師の差はありますし、怒りの元になる事象が異なりますが。
先日観た『ある少年の告白』と同じく、キリスト教原理主義 福音派に関する告発映画に思えました。
教義(聖書)に書かれている教えより、お金や政治に関係した主張がまかり通っているのはおかしくないか?という、現代アメリカの問題点を暴く視点がありました。
反トランプ映画の一つなのかもですね。
イーサン・ホークの「真面目さと愛がゆえに、内面が壊れていく」という演技は見事でした。
1点だけ、精神的な高まりを「空中浮遊」で表現するシーンがあるのですが、どうしてもオウム真理教を思い出しちゃうんで、ここをまじめにやればやるだけ笑ってしまいました。
最後はお互いが救い合う
イーサンホークの演技が素晴らしい
絶望感。衝撃カットと衝撃ラスト
ほんの少しの光に救われる
この世界はすべて神のものです。
アメリカ社会において、地域のカウンセラーの役割をも担う牧師。「気軽に祈りを語る者は、本当の祈りを知らない」と手厳しいが、ビジネスと化した信仰と、自然破壊に異議を感じる良心の狭間で揺れている。
徐々に醸されていく不穏な空気。まるで、破滅に向かおうとする地球環境と、病におかされ先のない我が身を重ねたかのような深刻さ。
自然環境を乱す人間を、神は赦してくれるのか?と自問しつつも、「現状も神の計画だとしたら?」と返されればぐうの音もでない。そう、人間の所業もすべて神の意思だと思えれば、せめて絶望から解き放たれるのだろう。
ラストの解釈は多様。
個人的には、破壊者(いや、破戒者か?)を道連れにしようとしたが、彼女が現れ頓挫、せめて自らに責め苦の試練を課そうとした。そして、「愛する者」ではなく「守るべき良心」の彼女をいとおしく抱き寄せた、と感じるのだが?
背景が違い過ぎる
おそらく、それぞれの背景を実感できる環境に居たら、全く違った感想が生まれただろうし、もしかしたら絶賛してたのかもしれない。
地球温暖化についての意見や考察については、少しは理解できるが、環境活動家ではないので、そこまで深くの背景はわからない。また、キリスト教についてのバックボーンやそれを取り巻く環境などが扱われるが、疑問符は付くが明確な課題意識は自分の中には無い。それらをベースとした主人公トラー神父への共感は、なかなか出来そうに無い。
そこまで考えずに観れば良いのかもしれないが、テーマとしては深いものなので、相応の背景知識があったほうが良いのだろう。「沈黙」は追いつけたが、本作には取り残された感が残った。神はこれ(環境破壊)を、許すのか?
イーサン・ホーク、アマンダ・セーフライドと、馴染みの俳優陣だったが、いまひとつのめり込めなかった。
難解だが刺さる
原題は”First Reformed”、教会の名である。この教会(びっくりするほど人が来ない)の牧師であるイーサン・ホーク演じるトラー牧師の語りが物語の終盤までを支配する。
私はキリスト教に詳しくはないので、彼の語りは難解ではあるが、物語自体は現代の欺瞞的な部分を的確に表している作品ではないだろうか。「2050年には地球は壊滅するのに、そんな未来に生きる子を誕生させてよいのか」という葛藤を語る若い父親に、反論しつつも心を寄せるトラー牧師。彼も大義なき戦争で息子を失い、病の兆候を抱え、おまけに完全なるアルコール依存である。常に陰鬱な表情を示すイーサン・ホーク。彼の孤独は、暗さで表される。彼の周囲は暗く、色がない。そしてPCで検索するシーンは常に真っ暗な中で検索。深い闇だ。
彼の葛藤は、現代の環境問題、そして宗教とはどうあるべきなのか、現実と折り合いをつけるとはどういうことなのか、を考えさせられる。何もかもを抱えてしまったトラー牧師だが、最後のあのシーンは予測できなかった。あれは救いなのだろうか。救いであってほしいように思う。そして彼は日記に最後に何を書いたのだろうか。ずっと考えているうちに不意に物語は終わった。
4:3スタンダードサイズ
日本語タイトル テーマはデカイ
魂が引き込まれる名作
最初から最後までイーサン・ホーク演じる主人公トラー牧師がほぼ出ずっぱりで、観客は否応なしに主人公の内面の葛藤を共有し続けることになる。しんどい作品だが、不思議に目が離せない。
メアリの夫マイケルとの議論のシーンが本作品の白眉であろう。それぞれ自分の感情を抑制しながら相手を理解しようとし、真摯に話そうとする。ふたりの議論は平行線だが、もともと立ち位置が違う。人は相手の意見を尊重することはできるが、まったく違う意見の持ち主同士が同じ意見になることは滅多にない。その辺りは議論している本人たちが一番よく解っている。
このシーンが映画の中で最も大事なシーンだと思う理由は、この会話によって主人公の本音が垣間見えるからである。トラー牧師は人間には希望と絶望の両方があると言いながら、本当は絶望しかないと思っている。しかしマイケルには、たとえ未来に絶望しか見えないとしても、人間は日々の行動を選択しなければならないと説く。殆ど実存主義者の弁舌だ。宗教家とは思えない。神への信仰は揺らいでいないかもしれないが、教会への不信は募る。そういうトラーがプロテスタントの牧師であるところに、彼の深い苦悩がある。そして観客は彼の苦悩を共有する。実によくできた会話である。
大袈裟なCGも大音量のBGMもなく静かに物語は進んでいくが、人間にはどんな状況でも世界との関わりがあり、日常生活が待っている。理念と現実とのギャップは常にあり、例外なく人を苦しめる。死ぬ以外に断ち切る術はない。
イーサン・ホークは名演であった。映画「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」の演技も傑出していたが、本作品での演技は苦悩に満ちた牧師の魂が、苦悩の重さのままに迫ってくるような重厚感がある。観ていて息苦しくなるほどだ。そういう意味では本作品の邦題「魂のゆくえ」はぴったりである。
アマンダ・セイフライドはいつもながら達者である。本作品はストーリーからディテールまで。とてもリアルな作品だから、大仰な演技は一切ないが、憂いを秘めた大きな目が様々な感情を物語る。最後の最後に「トラー牧師」ではなく「エルンスト」と呼ぶシーンには息を呑んだ。
ネタバレになりそうなシーンが多くて、レビューの書きづらい作品だが、ラスト近くのシーンでは、映画「ダ・ビンチ・コード」のシラスを思い出した。あれはカトリックの修道士であったはずだ。プロテスタントであるトラー牧師の信仰が揺らいでいることの証かもしれない。
総じて難解だが、魂が引き込まれる名作だと思う。
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