「ただただ圧倒され、流される」サタンタンゴ andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)
ただただ圧倒され、流される
長い映画オタクを自認する私だが、さすがに7時間18分はきつい。インターミッションは2回、特に2回目は30分あるので、そこでかなりの疲労がどっときた。最初から最後まで集中力を切らさぬ、とまではいかなかったものの、ものすごい精神力を削って映画を鑑賞したことが分かる。
まずはその、どこを、何分何秒の部分を写真にしたとしても全て構図が完璧に決まっている、という映像の圧倒的な美しさ。それにも関わらず、驚異の長回し。どんだけ長回しなんだってくらい長い。それなのに一切画面が弛緩しないのだ。ここまで映画を「完璧だ」と思わせる映像は初めて観たと思う。
物語は...難解というより、何度も同じ時間軸を別の視点から繰り返してみせ、特に前半4時間ちょいは、それだけの時間をかけて、結局時間軸では1日の経過なので、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」の前半くらい怠い。大審問官の辺りくらい怠い。冒頭の牛で不安に駆られてから、「いけそう」「怠い」の繰り返しなのだが、それでも不思議と目が離せない。
前半に比べれば、後半は約3時間に前半の倍の6章分詰めてあるので、多少の動きがある(実際後半が短いのかもしれないが)。救世主かペテン師か...いや私には何をどう見たってペテン師のアレにしか見えないのだが...と思いながらも、突き放したように見つめる時間。
最後の章で「えっ」と「ああ...」が自分の中で交錯した。
少女と猫の、ある種静かな狂気の光景が頭から離れない。彼女の目。正面から見るより圧倒的に大人びて寂寥感溢れる横顔。
あとダンスのシーンの長回し、こっちの頭がどうにかなりそうな光景だった...。頭にチーズロール...。
あと、お昼をろくに食べずに飲みものだけで耐えたので豆スープ(豚足入り)がめっちゃ食べたくなった。
一度観ると圧倒されて、色々考えたり調べたりしたくなる。知りたくなるけれども、もういちど観ますかと聞かれたらさすがに躊躇う。それくらい心身を持っていかれる映画体験であった。
そして鑑賞後、パンフレットの解説を読んで「そんな話だったの?! 」と案の定なっている私がいたので、パンフレットは読むといいと思う。