「7時間を体験して」サタンタンゴ Nicky_nameさんの映画レビュー(感想・評価)
7時間を体験して
「ニーチェの馬」との比較で言えば、やはり作りが粗いところは否めない。タルコフスキーとも比較されるが、緻密さは劣る。
ほぼ全編を貫いて降り続けるバケツをひっくり返したような雨、吹き続ける立っていられないほどの風。
映画全体の陰鬱なムードをBGMのように表現する演出だが、土砂降りの次の日のシーンなのに地面がカサカサに乾いていたり、登場人物周辺はビュンビュン風が吹いているのに並木が全く風に揺れていなかったり、少し興醒めなところはある。
しかし、圧巻なのは、少しずつ、ほんの少しずつ、不条理に崩れていく世界。
回収されない伏線(爆弾の話はどうなった?)やあまりにも安易に村人が騙される筋書き、医師の唐突な怒りなど、整合性のないストーリー。論理的に破綻しているイリミアーシュの演説。そもそもイリミアーシュはかつて村で何をしでかしたのか、何ゆえに村人に恐れられているのかすら、明らかでない。
人が人生を生きているこの世界に整合性などなく、生じて滅びるだけ。
聖書の、パロディとも言えるし、再現とも言える。
愚鈍な村人はいとも簡単に全財産を騙し取られスパイとして生きていく。おそらく自分がスパイになっていることにも気付かずに。これは共産主義のカリカチュアか。
男が立ち小便をするシーンが2回あるが、初めから終わりまで見せて、何もない。ストーリーに何の関係もないし、何も起きない。女が近所に住む男と寝る。誰とでも寝る。しかし、何も起きない。数十頭の馬が広場を駆け抜ける。ハッとするようなシーン。しかし、馬は話の進行とは無関係であり、風景としても強い違和感がある。延々と続くダンスシーン、いや乱痴気騒ぎ。それをじっと覗き見る少女。退廃。ソドムとゴモラか。これは美ではなく、グロである。
7時間の間に、小さなほころびが積み重なり、少し世界が壊れたことだけがわかる。
すさまじい体験。