劇場公開日 2019年9月27日

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「精神世界を巡る仮想現実体験映画」宮本から君へ keithKHさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5精神世界を巡る仮想現実体験映画

2019年10月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

難しい

近年散見されるコミック原作の実写版ですが、池松壮亮演じる主人公・宮本浩の、徹底して一人称による、あまりにも激越で、あまりにも壮烈なラブストーリーです。

手持ちカメラでの長回しによって不安定に揺らされ続け、寄せカットの多用によって緊張感を漂わせ、殆どが室内、それも意図的に狭小なスペースに閉じ込めたシークェンスによって閉塞感と抑圧感が高められ、これらの濃密で息苦しいほどの重圧の映像が紡ぎ合わされることにより、観客は徐々に微酔気分に置かれていきます。
更に頻繁にフラッシュバックが挿入されて、過去と現在の境界が曖昧にされるために、益々映像に酔わされトランス状態に陥らされ、一種の酸欠状態に喘がされます。
将にこれこそ真利子哲也監督の狙いであり、観客は、まんまとその術中に嵌っていきます。

本作は、実は宮本浩の心象風景を散文化して描いた、明白なスジのない幻想的な叙景詩であろうと思います。真利子監督は、映像技術を駆使して観客を宮本自身の精神世界に誘い、その中を彷徨わせ、彼が抱いたその時々の不安や苦悩、憤怒や喜悦、希望や絶望、嫉妬や戦慄、欺瞞や決断を仮想現実体験させていきます。観客を、いわば一種の催眠術にかけて陶酔させていく、その術策は極めて巧妙であり、計算され尽くした映画として斬新で画期的なその制作コンセプトにはただただ脱帽します。

池松壮亮の、ひ弱だけれど昂ぶる男・宮本を演じる、異常なほどの渾身の熱演により、物語が進行するにつれ宮本の狂気が増し怒声のボルテージが上がってくるのですが、反比例してその眼は終始醒めて落ち着いていたのは、やはり一夜の夢の世界を垣間見させられたからであろうと思います。

本作は、最初はコミックから12回の連続TVドラマ化されています。TVドラマを一切観ていない立場から、この129分の映画化作品に限れば、茶の間で冷静に視聴されるTVでは、その制作意図が不可解なままで終わるでしょうし、何よりあの暴力描写はTVには不適切でしょうから、本作は映画館でこそ観るべき作品として完成された作品といえます。

keithKH