劇場公開日 2020年2月28日

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「ビジュアルが嘘くさい。行動が不自然」野性の呼び声 うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)

1.5 ビジュアルが嘘くさい。行動が不自然

2025年11月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

いろいろ言いたいことがある。でもひと言で言ってしまえば「満足できない」内容だった。表面的にはよくまとめ上げたとは思うものの、雑なほころびが目立つ。一番のポイントは犬の演技だ。

今回、なぜかパンフレットが購入できなかった。販売自体がないのか、劇場で売っていなかっただけなのか事情は分からないが、内容についての疑問は解消されないまま、もやもやとしたものが残る。

犬の演技というのは、映画の製作的に、一番重要な決断の部分だ。優秀なトレーナーを起用して、極力本当に犬に演じさせる方法や、全部をCGで作ってしまう方法など、ある程度の方向性を決めなければならない。『キャッツ』などは、舞台のミュージカルをあんなヴィジュアルにしてしまったがゆえにかなり悲惨な出来上がりになってしまった。どれほど美しい歌声や魂のこもった踊りを俳優が演じても、「CGでどうにでもなるんでしょ?」と思われてしまえばおしまいだ。

この映画では、基本はCGで犬を作り上げたように見える。ネタバレになるので予告編の映像のみに絞っても、本物の犬が演じているようには見えない。クレジットにも、犬の名前が出ない。オオカミや熊、野鳥の群れなどはほぼ全部がCGであろう。

『ライオンキング』『ジャングルブック』『ダンボ』など、アニメーションを実写化したものは、本物の動物を出すことははじめから考えにくい。『ベイブ』では仔豚がしゃべるし、『ライフ・オブ・パイ』では、虎が救命ボートで少年と漂流し、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』では、アライグマが宇宙船の操縦をこなす。それぞれに完成形を描いたうえで方法を模索し、映画が製作されていく。

この映画では、犬をCGで作るという決断が下されたわけだ。

厄介なのはこの作品の趣旨である。人間が野生に挑み、厳しい自然に翻弄されるさまを描写している。その中間にいるのが、犬のバックであり、ハリソン・フォード演じる孤独な老人だ。このペアは人間の「群れ」を離れ、ギリギリの辺境で暮らす。てっきり人嫌いをこじらせてそうなったのかと思いきや、実はそうでもないようだ。とにかく人間の営みと、厳しい自然の関係性が昔ながらの語り口で広がっていく。

そうすると、大切なのは映像のリアルさだ。犬は人間と最も近い動物と言ってもいいかもしれない。多くの人が犬を身近に知り、飼っている。それだけ映像のウソが見破られるリスクが高い。とにかく完成した犬の映像は、本物には見えない完成度だった。それがすべて。この映画を決定づける要素と言っていい。

もうひとつ気になったことがある。20世紀スタジオとして初の映画リリースという触れ込みで、力が入っているようだが、犬と人間の関係性は、映画会社の意向が強く影響したようだ。主従関係が、当時の時代背景からしたらあり得ないような描写があちこちに見られる。まるで友達のように犬と接している。女性の社会的役割や、黒人の行動など、細かな関係性が現在の価値観に沿って修正されているように見える。そこはストーリーの本筋に関係のない部分なのかもしれない。しかし、この映画の時代は昔だ。昔話で、昔じゃないみたいなちぐはぐなことが起きれば、当然違和感が生じる。原作を読んだことがないので、どこまでが原作に従って犬を描いたのか分からない。

ビジュアルのウソっぽさと、脚本段階での登場人物の行動の不自然さ。いずれも映画製作者の妥協の産物だ。決定的にこの映画をダメにした原因だと思う。

うそつきかもめ